夏の電力不足への懸念が広がる中、もう1つの電力問題が静かに進んでいる。ICT(情報通信技術)はデータセンターやネットワーク関連の消費電力が急増しており、今後も大幅な増加が見込まれている。背景にあるのが消費電力の大きいGPU(画像処理半導体)の広がり、そして動画配信の拡大だ。国立情報学研究所の佐藤一郎教授は「5年ほどしたら、動画配信やメタバースには制限がかかる可能性がある」と警鐘を鳴らす。再生回数を競うユーチューバーらの活動に影響が出る可能性もある。
(聞き手は日経ビジネス編集部、中沢康彦)

ICTと消費電力について、どんな課題が出ているのでしょうか。
佐藤一郎教授(以降、佐藤氏):科学技術振興機構が2021年に発表した「情報化社会の進展がエネルギー消費に与える影響」によると、ICTセクターの消費電力は18年から30年にデータセンターが14 TWh(テラワット時)から90 TWhへと6.4倍に、ネットワークが同期間に23 TWhから93 TWhへと4倍に増加すると見込まれています。その後も増加ペースは加速していきます。
資源エネルギー庁の調べによると、日本の20年の発電電力量は1000.8TWh。今年の夏は電力不足が深刻化していますが、このままだと30年前後にはICTの電力消費の増加により、電力供給不足が慢性的に生じることになります。
ICTによる消費電力の急増は実は日本だけでなく、世界的な傾向です。世界では日本を上回るペースで消費電力が増える見込みです。夏の電力問題は日本国内のいろいろな状況が関係していますが、ICTによって見込まれる電力不足は世界的な傾向であり、世界中で電力不足が起きる可能性があります。
なぜこれほどのペースで電力消費が増えているのでしょうか。
佐藤氏:データセンターの場合、消費電力の増加の理由の1つとして挙げられるのが、高性能GPUの登場です。GPUは機械学習に不可欠ですが、高性能な製品は消費電力が非常に大きいのです。また、機械学習の精度を高める方法は質のよい大量のデータから高度な学習データをつくることになりますが、データ量の増加と学習モデル高度化によって学習時間の大幅な増加を伴うため、消費電力がそれだけ増えることになります。
インターネットのトラフィックは年率20%以上増えています。このトラフィックの増加に対応するには、1本の光ファイバー回線の通信帯域を広げるだけでは間に合いません。光ファイバー回線数を増やすことで対応していますが、回線が増えればその分、電力も増えてしまうことになります。
ではどんなトラフィックが影響しているのかといえば、トラフィックの種類別比率は調査によってばらつきがあるのですが、動画配信が半分超という結果が多くなっています。カナダのネット関連企業、サンドバインの「グローバルインターネットフェノミナリポート」では、1位がYouTubeで16.37%、2位がネットフリックスで10.61%となっています。またウェブページのデータ量も増加傾向にあり、ECサイトは特にデータ量が多く、それ以外の一般サイトではネット広告がデータ量に占める比率が高くなっています。
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