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 年功序列、終身雇用、年金制度。日本の成長を支えてきたシステムが相次いで疲弊を起こしている。金融庁資料に記された「老後資金2000万円」を巡る紛糾が続き、事実を直視し、未来に向けた冷静な議論がしにくい状態に陥っている。

 一方で、産業界では企業の競争力の源泉が変わりつつある。GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)といったプラットフォーム企業が覇権を握り、日本企業は気がつけば上流から下流へと流されている。

 日本は、これからの社会をどうデザインしていくべきなのだろうか。NTTドコモやリクルート、楽天、グーグルなど様々なIT企業を渡り歩き、『アフターデジタル』の共同著者の1人でもあるIT批評家の尾原和啓氏に話を聞いた。

(写真=的野 弘路)

 今、日本では「2000万円」という老後に必要な資産を巡って議論が巻き起こっている。ここで起きていることは、この先に変わるべくして変わるルールを前にした世代間の争いにほかならない。約束された世代、約束を反故(ほご)にされた世代、約束もされていない世代。こうした世代によって、映る光景が大きく異なっているはずだ。

 日本の高度成長期は「東洋の奇跡」と呼ばれ、それを支えた世代は終身雇用、年金という「将来の約束」をもって身を粉にして働いてきた。我々はまず、先人たちに感謝をしなければならない。それと同時に、国や産業界が作り上げてきたシステムが悲鳴を上げているのであれば、感謝に報いるためにもこの状況を「機会」として捉え、これからの社会をデザインしていかなければならないだろう。

 現在、日本企業はデジタル化を急いでいる。だが、オフラインを起点にしたデジタル化は「ビフォアデジタル」の世界にすぎない。海外ではオンラインがオフラインを包含する「アフターデジタル」の世界が進んでいる。重要なのは、アフターデジタルは企業の戦略を指すとともに、社会をどう設計していくのかという概念でもあるということ。努力した人が努力した分だけ満ち足りた生活を送れる社会。これをデザインするテクノロジーとして捉えるべきだと考えている。

 中国は現在、地続きの社会変革の流れの中にある。そもそも著しい経済成長を続けていたにもかかわらず、“信用できない”人が多かった社会だ。アリババグループのアント・フィナンシャルが始めた個人のスコアリングサービス「芝麻(ゴマ)信用」はこうした社会に進化をもたらした。「良い行い」が自身の信用向上に役立つことを知った中国人の間で、異常な進化をもたらした。

 一方で日本はどうか。日本は信用が前提の社会だったため、こうした進化は起きにくかった。加えて、日本はもともと「中流社会」と呼ばれるほど、格差が顕在化していなかった。だが、高度成長期のツケを一部の社会的クラスターの人たちが払わされるようになり、日本には格差が生まれ始めた。教育格差が生まれ、負の連鎖が始まった。

異なる「機会の均等」と「結果の均等」

 米ニューヨークの周辺には現在、新たなスラム街が形成されている。繁栄する大都市のすぐかたわらに、貧困による負の連載による社会が横たわっている。いわゆる「Urban Poor(アーバンプア)」が社会問題化している。

 こうした課題を解決する施策の一つに「Opportunity Zone(オポチュニティゾーン)」プログラムがある。これは低所得者地域への長期的な投資を促す節税インセンティブだ。同時に、貧困者に対して抜け出る機会をフェアに提供しようとするベンチャーが集まり始めている。