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 ビジネスパーソンが日常的に利用する「名刺」に特化した事業を始めて12年。Sansanが2019年6月19日、東京証券取引所マザーズ市場へ上場した。企業向けの名刺管理サービス「Sansan」、個人向け名刺アプリ「Eight」の2つのサービスを提供。この6年は広告宣伝費を投じ、積極的な事業拡大を進めてきた。Sansanの寺田親弘社長に話を聞いた。

(写真=的野 弘路)

 2007年創業から12年越しの上場となった。

 不思議とめでたいという感じではない。襟を正してもう一度成長に向き合わねばという気持ちでいる。会社としては大きなイベントだが、一段と成長を加速させていかなければと感じている。

 父親も起業家だ。三井物産に8年間勤務したが、当時からいつか起業したいという思いを持っていた。「名刺」に着目したのは、社会人になりたての頃から課題を感じていたからだ。誰しもが使うツールにもかかわらず、個人としても組織としても、まともな管理方法が確立されていなかった。

 人と人とのつながりをデータベース化することで、すごいことができそうだというぼんやりとした感触もあった。市場の伸びが期待できる領域だからという理由で事業を始めたわけではなかったため、暗中模索を続けてきた12年間だった。

 上場に伴い調達する資金は広告宣伝と採用活動を中心に投資していくつもりだ。M&A(合併・買収)も積極的に考えていく。顧客基盤獲得のためのM&Aも可能性としては持っているが、むしろ我々が目指すビジネスプラットフォームを形成していくための柱になる企業の買収を中心に考えていく。

 目指しているビジネスプラットフォームとは。

 米セールスフォース・ドットコムのプロダクトをイメージしてもらうといいかもしれない。Sansanは、全社員にIDを持って使ってもらえる比較的珍しいサービスだ。ほかのSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)であれば、営業部門や顧客対応部門など部門単位での導入になりがち。Sansanは規模も関係なく、広く汎用的に使ってもらえる強みがある。

 Sansanを通じて蓄積されていくのは顧客データ。このデータを便利に活用していくことを考えると、自然に様々な機能の拡充が予想できる。例えば、メール配信機能や顧客データのクレンジングサービスなどだ。自社で構築していく機能もあるし、他社のサービスとつながることで実現可能な機能もあるだろう。

 5期連続赤字での上場だ。黒字化のタイミングは。

 我々は既に赤字を拡大しながら売り上げを伸ばしていくフェーズではない。黒字化を見据えたかじ取りを進めていく。Sansanは一定の広告宣伝を投じても黒字化している。Eightは赤字だが、それでも今後赤字を先行させるつもりはない。

 Sansanの導入企業数は5700社を超えている。市場シェアの8割を押さえている認識だ。だが、それでも日本全国の従業員数をベースに考えると1%程度。今後、大きな成長余地が残されている。

 ただ、名刺を軸とした顧客管理サービスは既存のサービスをリプレースするものではない。そのため、企業には追加で発生する投資と映る。

 4~5年前はSansanの導入による生産性向上を訴えても、反応が悪かった。だが、環境が一変した。無駄な作業をいかに減らすか、残業をどれだけ減らせるか、人手不足をどう解消するか。こうした課題は経営課題へと浮上し、その領域自体が投資対象になっている。

 クラウド型のサービスに対する企業の抵抗感が消えつつあることも追い風。三井住友銀行がSansanを導入しているように、最もクラウド化への抵抗が強い金融業界の意識も変わりつつある。