2030年までに世界が達成すべきゴールを定めた「SDGs(持続可能な開発目標)」が採択されたのは15年9月に開催された国連サミットでのこと。17の目標と169のターゲットが定められたSDGsに対し、日本の大手企業や官公庁を中心に積極的に取り組む姿勢が目立っていた。だが、新型コロナウイルスの脅威が明らかになるにつれて経済が急速に停滞し、経営が悪化する企業が続出している。
中長期的な目標を掲げたSDGsに関する取り組みは、新型コロナによって急速にしぼむのか。『SDGsが問いかける経営の未来』の著者の一人で、デロイトトーマツグループの戦略コンサルティング部門「モニターデロイト」でスペシャリストリードを務める山田太雲氏に話を聞いた。

デロイトトーマツグループ戦略コンサルティング部門「モニターデロイト」のスペシャリストリード。「ビジネスとSDGs」に関するナレッジを発信するとともに、サステナビリティー関連のコンサルティング案件に社会課題・市民社会のエキスパートとして関与。2002年から12年にわたり大手国際NGO「Oxfam(オックスファム)」で国際保健、税・財政と貧困・格差、気候変動などの分野の政策提言活動を担当した。
多くの企業がSDGs(持続可能な開発目標)を掲げて経営してきたが、新型コロナウイルスの感染拡大という有事の今、企業は中長期的価値の追求よりも短期的価値の追求に走るのではないか。
SDGsはあくまでも平時の話であって有事に有効性をもたらさない、こう考えている人が多いかもしれない。
今回の新型コロナの問題は、企業のこれまでのSDGsへの取り組みが本気だったのか、それとも表面的なコミュニケーションとして取り組んでいたのかが改めて問われる良い機会だとみている。そもそも、SDGsが有事には適さないという捉え方は事実と異なる。
SDGsの前身である「MDGs(ミレニアム開発目標)」は、00年に国連ミレニアムサミットで合意され、翌年から15年までの15年間が実施期間だった。MDGsは経済全体を包含するものではなかったため、日本ではさほど認知を得ていなかった。MDGsのアジェンダは、アフリカをはじめとする世界の最貧国が直面していた深刻な状況への対応だった。
1980年代初頭に米国で最初の症例が発見されたエイズウイルス(HIV)は、貧困や差別と相まってアフリカ諸国などの貧困国で猛威を振るった。MDGs発足時には一部の国で平均寿命が30歳台にまで落ち込むなど、想像を絶する社会インパクトをもたらしていた。これに対し、当事国や国際社会がMDGsのかけ声の下で資源と政策を動員した取り組みは一定程度の成功を収め、人類がエイズ禍を抑制可能であることを示した。
この時期に、個人の感染状況に関するプライバシー保護のあり方が問われた。その結果、感染リスクが高い社会的属性や職業に従事する人々の人権を保護することによってこそ、当事者に積極的な検査や治療を促せるという方法論が確立した。まさに我々が現在直面している課題への示唆が多く含まれている。
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