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タイ国会は5日夜、次期首相の指名選挙を実施した。選ばれたのは、現軍事政権のプラユット暫定首相だ。今年3月に軍政から民政に移管するための総選挙が実施されたにもかかわらず、実質的には軍の影響力が残る皮肉な形となった。では新政権が誕生しても軍政と変わらぬ政治が続くのだろうか。経済にはどのような影響があるのだろうか。タイには多くの日系企業が進出している。新しく誕生する政権に対し、日系企業はどう対応すべきか。タイの政治に詳しいタマサート大学の水上祐二客員研究員に聞いた。

軍事政権の暫定首相で陸軍出身のプラユット氏が新首相に選ばれました。民政移管を目指していたにもかかわらず、軍の影響力が色濃く残る形となっています。

タマサート大学の水上祐二客員研究員(以下、水上):今回、国会で実施された首相指名選挙は下院(定数500)と上院(同250)の過半数の票を集めた候補が首相に選ばれる仕組みでした。このうち上院は軍政が事実上任命した非選議員で占められていますから、親軍政党に有利な状況でした。ただ下院で親軍政党は116議席しか確保できていません

首相指名選挙で続投を決めたタイ軍事政権のプラユット暫定首相(写真:AFP/アフロ)

 このままでは上院の250を足しても過半に及びませんが、親軍政党は民主党など18党と連立を組むことで下院の過半数を何とか確保し、プラユット暫定首相を続投させることに成功しました。ただ下院の連立工作で親軍政党が押さえることができた議席は過半をわずかに超える程度ですから、政権の安定という意味では心もとない状況です。

 タイの国民感情をあえて代弁するとすれば、軍事政権時代は強権でもって反対派の声を抑え込んでいましたから、良くも悪くも政治は安定していました。民主化勢力が息を吹き返すことで、クーデター前のように再び政治や治安が混乱することは避けたいと考える向きは少なくなかったと思います。ただ、軍が強権を振るい続ける事態は避けるべきだという思いもある。それが今回の微妙な結果につながったと思います。

日系企業からは政治に安定をもたらした軍事政権を評価する声が出ています。首相の顔が変わらないということは、民政移管後も軍事政権と変わらない政治状況が続くと見ていいのでしょうか。

水上:その認識は誤っていると思います。確かに首相の顔は変わりません。またタイの経済政策を統括してきたソムキット副首相も引き続き政権にとどまる公算は大きいです。ただ新しく誕生する政権は、軍事政権とは全く別ものと捉えた方がいいでしょう。

「鶴の一声」はもう通じない、経済政策は不透明に

 軍事政権時代は軍政の「鶴の一声」があれば基本的にどんな法案も通りました。さらにプラユット暫定首相には超法規的な措置、つまりあらゆる命令を出せる権限まで与えられていました。この権限は経済特区開発のための土地収用や、都市鉄道の開発といった経済面でも頻繁に発動されました。その是非は脇に置くとして、超法規的措置のおかげでインフラ計画が数年前倒しで進んだといった事例があるのも事実です。