デジタル化の広がりで、抜本的な経営構造改革を進める銀行業界。2019年3月期に7000億円弱もの損失を計上したみずほフィナンシャルグループ(FG)の坂井辰史社長は、社員の副業・兼業を容認する新しい人事制度を今年度から導入する方針を明らかにした。管理職が取引先に出向してそのまま転籍する銀行員の「片道切符」人事についても、ベテランだけでなく若い行員にも適用していく考えも示した。銀行の人材流動化が今後、加速するきっかけになるのかもしれない。
今年度から始まっている新中期経営計画の期間を従来の3年から5年に変えました。
みずほフィナンシャルグループ(FG)の坂井辰史社長(以下、坂井):計画は、次世代金融機関への転換を図ることが最大の目的です。我々がやろうとしている構造改革は新しい人事制度など根こそぎ業務の在り方を見直していくことなので、そのためには5年かけた方がいいと考えました。
今までの3年というと、過去の延長で3年間をとらえがちでした。5年という新たな期間を設定したことは、みずほの改革に向けた覚悟、決意だと理解いただきたい。
行員の副業を認めることを明らかにしたみずほFGの坂井辰史社長(写真:吉成大輔)
新たな人事制度とは?
坂井:みずほFG社員の副業を含めた兼業を今年度から解禁したいと考えています。社内における競争原理で考えるのではなく、70歳、80歳まで自己実現していくためのスキルをみずほで身につけてほしい。
社会で金融についての価値観が変わっているわけですから、特に若い行員は、従来の金融の考え方であるお金そのものをベースに価値を作るのではなく、非・金融の新しい領域にも挑戦する機会があります。
なぜ副業を認めるのですか?
坂井:働くことに対する一人ひとりの意識がものすごく変わっているからです。昔は定年まで勤めあげて、年金で暮らすという生活が普通でした。今は、(年金など)社会保障に対する不安もあり、平均寿命も長くなっている。
そうした中、終身雇用を前提にした人事制度には限界があります。我々が金融と非・金融の領域を含めた新しい価値をつむいでいる中、金融の領域しか知らないまま、社内の評価や昇格したいというモチベーションが形成される制度は、顧客ニーズとの間にミスマッチがあります。
若手行員の「片道出向」も
顧客から銀行の人材を求めるニーズはどの程度なのでしょうか?
坂井:革新的な分野では、取引先から経営管理ができる若手、シニアの需要はものすごくあります。そこに人材を供給し、その後は銀行に戻ってきてもいいし、取引先に行ったきりがあってもいい。行ったきりというのは、シニアだけでなく、若い人も含めてです。
今までは、(取引先に出向する銀行員の)「中途退社」をタブー視する風潮もありましたが、そうではなく、むしろ、みずほの人的ネットワークを、社外につなげて、そこに対して我々がサポートしていきたいですね。みずほを卒業した後も、みずほで働いたキャリアが生きるという仕組みを作ることが大事だと考えています。
副業については、なお企業側から慎重な声も聞かれます。制度上の課題はありませんか?
坂井:もちろん、銀行業務での守秘義務、利益相反の問題をどうするかは考える必要があります。例えば、IT(情報技術)系の人材であれば、副業で銀行とは違うIT開発をするのは構いませんが、そこで銀行で培ったノウハウを生かした場合、「知財の帰属はどうなるのか?」といった調整が必要になることも考えられます。
人員、店舗削減などの改革の現状は?
坂井:構造改革は、人を減らす、店舗を減らすということについて自然退職、採用調整で賄うという基本方針は変えていません。むしろ、削減という意味ではなく、ビジネスの在り方を変えることが最大のチャレンジ。だから人事制度で、一人ひとりがどのように自己実現していくかということに本人の希望、適性も考慮しながら、我々は向き合っていきます。
そのための教育、資源は惜しみません。構造改革はそういう風に社内の発想を転換していきたい。人の在り方、働き方から変えていかないと、次世代金融への転換が絵に描いた餅になりかねないと考えています。
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