対話型AI(人工知能)の「ChatGPT(チャットGPT)」で世界から注目される米オープンAI(OpenAI)と資本・業務提携して攻勢に出る米マイクロソフト。かつてパソコンOS(基本ソフト)「Windows」で独占的な市場を築き上げ、各国の独占禁止法当局と争ってきた経験を持つ同社は、警戒する人たちもいるほどの革新的な技術をどのように社会に定着させていくのか。長年にわたり法務部門を率いてきたブラッド・スミス副会長兼社長が描く道筋とは。そして、米国の大手テック企業が直面する成長減速などの課題とどう向き合うのか。スミス副会長が日経ビジネスに余すところなく語ったロングインタビュー。

ブラッド・スミス(Brad Smith)氏 米マイクロソフト副会長兼社長
ブラッド・スミス(Brad Smith)氏 米マイクロソフト副会長兼社長
米ウィスコンシン州で育ち、プリンストン大学を卒業。その後、コロンビア大学で法学博士号を取得。法律事務所でパートナーを務めた後、1993年にマイクロソフト入社。2002年から法務顧問を務め、独占禁止法に関する論争を解決する取り組みを主導した。15年に社長に就任し、21年から現職。(写真:北山 宏一)

まずはマイクロソフトが出資するオープンAIについて聞かせてください。イタリアが個人情報保護の観点からChatGPTの使用を一時禁止するなど、世界で生成AIを規制する動きが出ています。この流れをどう見ていますか。

ブラッド・スミス米マイクロソフト副会長兼社長(以下、スミス氏):まず、私たちはAIがもたらす利益を心にとどめておくべきでしょう。基本的にAIは、教育やヘルスケア、経済全体の生産性を向上させる道具だと思っています。

 それと同時に、AIがもたらすリスクを管理する必要があります。そのために企業は責任ある行動を取らなくてはなりません。マイクロソフトは「倫理的なAI」をめぐる基盤の構築に6年前から取り組んできました。そうした取り組みが、より多くの迅速な規制づくりにつながると信じています。それらの規制がよく練られたものであれば、すべての人に役立つはずです。

 技術を理解し、同時に規制の問題を解決しようと、人々が懸命に取り組んでいます。まだ始まったばかりであり、規制の面で少し混乱した状況に見えるのは仕方がないことでしょう。ですが、私は楽観的に見ています。人々がAIについての理解を深め、課題と向き合うことで、より明確で安定した形になっていくはずです。

生成AIについては、著作権や個人情報の侵害、世論工作やサイバー攻撃への悪用といった懸念の声も上がっています。

スミス氏:それらの問題は、あるレベルでは異なりますし、別のレベルでは同じだと言えます。

 まず、どこが同じなのか。専門家を配置して、学際的なチームを編成し、様々な問題を統治するための企業ポリシーを構築する必要があるということです。我々はエンジニアのためのトレーニングプログラムや、自動でテストするためのツールなどを開発し、全体の統治システムをつくりました。さらにそれらを拡張し、プライバシーやサイバーセキュリティー、デジタルセーフティーにおいて共通の方法で倫理的なAIを管理してきました。

 違うのは問題への向き合い方です。サイバーセキュリティーに関しては、一部の国家敵対者たちが危害を加えるためにAIの力を使おうとするのは明らかです。我々の技術が悪用されないように厳重に注意しなければなりません。さらに、我々自身がAIを使ってAIの悪用を検知し、阻止できるようにする必要があります。

 一方、著作権の問題では、長年あり続けてきた原則や法律と向き合うことになります。ジャーナリストを含むクリエーターの需要やキャリアに目を向けるということです。「法律を変える必要があるのだろうか」「世界中の新聞社と協力してAIによって新しい収益機会を生み出す機会はあるだろうか」などと考える必要があるのです。

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