野瀬氏:21年の業務用ビールの販売も19年と比べて7割くらいしか戻らないだろうとの見方をしています。20年は19年と比べて6割ほどだったので少しずつ回復していくとみているのですが、まだ厳しい状況は続いています。飲食店では感染拡大防止対策を取りながら制約の中で営業を継続しているところが多く、日本は海外に比べて新型コロナウイルスの感染者数の拡大を抑えていると思います。それでも予断を許さない状況なので現状では客足が戻るのは先かもしれない。

 一方で自宅勤務などにより家庭で過ごす時間が増えた人が多い。お客さまは自分で好きなブランドのお酒を買って自宅で楽しむようになっています。いわゆる「家飲み」の時間を楽しくする購買行動にどうアジャストするかが重要になってきました。コロナ禍の収束については正直、その見通しが分かりません。ですから、お客さまへの情報発信は欠かすことができず、タッチポイントを1つでも多く増やすことが当面の戦略となります。

コロナ禍に限らず日本では価値観が大きく変革する時期に差し掛かっています。社内の働き方改革など、どのような点に主眼を置いて経営に取り組むのでしょうか。

野瀬氏:コア・コンピタンスはビールであり、その原点となる能力を高めていくことです。当社は若干、環境変化への弱さがあり、経営はボラティリティー(変動率)が高いと言えます。しかし、たとえ環境が変わってもビールブランドがしっかりしていれば、しなやかで強靱(きょうじん)な経営ができます。原点の能力が強くなければ会社は社員に対する求心力を保つことができません。それは経営の一丁目一番地で間違ってはいけないところですね。世の中の多様化に対応して酒類のセグメントは大きく広がりました。どの市場を攻めるかは取捨選択するしなやかさが必要になりますが、コア・コンピタンスの強化は常に経営の中心にあります。

 また、働き方の観点で言えば「適所適材」を一段と進める考えです。「適材適所」ではなく「適所適材」です。海外事業やRTD(Ready to Drink の略。栓を開けてそのまま飲める低アルコール飲料)など社内で社員が能力を発揮できる場所は数多くあります。経営の役割はまず「適所」をつくる準備を進め、そこに「適材」を配置していくことです。社員ばかりが頑張っても働く環境が合っていなければ人材を失うことになります。人事異動は経営のテーマの1つでしょう。ですから、私の役割はコア・コンピタンスへの「原点能力」と、社員の「適所適材」になります。

働き方は「ジョブ型人事制度」のようなものに変化するということでしょうか。

野瀬氏:人事はそれほど簡単ではありません。部署間のローテーションは人材育成のためある程度は必要でしょう。成果を出すことが求められる仕事もありますが、働き方は一足飛びにジョブ型に変わりません。多様な人材が多様な部署で働いているのです。マーケティングも製造も経験して社員の適性を見て育てることも大切です。ですから、しなやかな働き方が当社では望ましいと考えています。

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