
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で経済危機が起きています。
熊野英生氏(第一生命経済研究所首席エコノミスト、以下、熊野氏):4月1日に日本銀行が発表した短観(全国企業短期経済観測調査)を見ると、「交通事故に遭って全身は痛いと思ったが、レントゲンを見ると腰以外は大丈夫」といった印象だ。業況判断指数・DI(Diffusion Index)の落ち方は業種で偏在していて、宿泊や飲食サービスが極端に悪い。経済の悪化は局所にとどまっています。

リーマン・ショックなど過去の経済危機との違いはどこにあるでしょうか。
熊野氏:新型コロナウイルスによる経済危機は、国民の不安心理が強いという点が通常の不況と異なります。通常は製造業の輸出が減少して、企業収益が落ち込み、雇用・賃金が削減されて消費が悪化する。リーマン・ショックは「収入が減って買えない」という状態でした。
今回はまだ、それほど家計の所得は痛んでいませんが、感染拡大の不安があるから買い物を手控え、消費の減少が起きています。そのため、今現金を配っても貯蓄が積み上がるだけの恐れがあり、伝統的な金融・財政政策が効きづらいという面があります。
今後の注目点は、この需要の減少が雇用の悪化につながり、そして長引くかどうかです。ホテルや飲食店の雇用がいつまで持つか。短観が示す企業の資金繰りもかなり厳しく、雇用調整や倒産で失業者が増えると消費マインドは大きく冷え込む。ゴールデンウイークまで停滞すると、かなりしんどいですね。
どのような支援策が重要でしょうか。
熊野氏:「雇用調整助成金」のように会社が存続する前提で従業員の収入をサポートするような制度は、企業が破綻したら効果がなくなります。企業への金融支援を手厚くやらないと連鎖破綻が起きる。短観による日本経済の健康診断は、「飲食ホテルの事業支援をやらないと雇用悪化につながる」と見てとれます。
民間金融機関が企業の運転資金をサポートしないといけない。大企業はクレジットライン(与信枠)を拡大していますが、中堅・中小企業にも融資枠を付与して、枠内で機動的にお金を引き出せる仕組みを作ったほうがよいのではないでしょうか。
飲食店やホテルは、(景況感や財務体質が)悪いから、金融機関は融資してくれないのではないかという思い込みがあります。以前から、担保を持たずに「現金商売」で経営してきた業界です。お金が尽きたら、心臓が止まってしまいます。
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