伝説的投資家であるジム・ロジャーズ氏に、ロシアのウクライナ侵攻によって世界経済が混乱する中、今の世界をどう見ているのか、自身の投資方針をどう変えているのか、投資家としてどう情報収集を行っているかについて聞いた。

ロシアのウクライナ侵攻についてどう見ていますか。

ジム・ロジャーズ氏:戦争は誰にとっても良いものではありません。戦争はロシアやプーチン大統領も含めて誰の役にも立っておらず、インフレや資源不足、高金利をもたらして経済を混乱させています。とにかく誰も得をしない戦争です。市場自体がもうすぐ落ち着いたとしても、この戦争は世界に大きなダメージを残すでしょう。

プーチン大統領については。

ロジャーズ氏:前提として、私はどんな戦争も好みません。プーチン大統領は、今回の戦争はやむを得ず引き起こされたと考えているようですが、ウクライナはそう考えていませんよね。どんな戦争にも二面性がありますが、私は戦争を全力で止めることを支持します。戦争は、絶対に誰にとっても良いものではありませんから。

ジム・ロジャーズ氏。若き日に米著名投資家のジョージ・ソロス氏と設立したヘッジファンドを通じて驚異的なリターンを達成し、「伝説の投資家」となった(写真:的野 弘路)
ジム・ロジャーズ氏。若き日に米著名投資家のジョージ・ソロス氏と設立したヘッジファンドを通じて驚異的なリターンを達成し、「伝説の投資家」となった(写真:的野 弘路)

今回の戦争に対してもかなり悲観的に見ているということですね。

ロジャーズ氏:私は、戦争勃発前から世界に対して悲観的です。世界経済は常にインフレや高金利などの未解決問題を抱えていて、戦争に関係なくこれらの問題は解決されるべきです。この状況を踏まえれば、今後起こりうる世界規模の経済危機がどんな大惨事を招くかは想像できます。決して脅しているわけではありません。ただ事実を述べているまでです。

現行のインフレは長期にわたって続くと思いますか。

ロジャーズ氏:長期の定義によりますが、インフレは少なくとも今後数年間は続くでしょう。現在ほど紙幣が刷られた時代はかつてなかった。日本でも米国でも際限なくお金が刷られています。紙幣が大量に刷られればインフレが続くことは歴史が証明しています。

米企業はロシアから撤退すべきではない

米国民として、バイデン大統領の対ロシア戦略は正しいと思いますか。

ロジャーズ氏:バイデン大統領は直接的な戦争からは距離を置いてはいますが、ウクライナ軍のための兵器に大金を投入しています。私が望むのは、膠着状態への介入ではなく、その状態からの脱却です。プーチン大統領とバイデン大統領がお互いにこの状態をどう脱するのかを考える機会があればいいかと考えます。

米国のロシアへの経済制裁をどう見ていますか。

ロジャーズ氏:まず、様々な研究によれば多くの経済制裁は効果がありません。効果があるのはせいぜい1週間程度でしょう。さらに、私は関係性の遮断よりも、たとえお互い怒鳴り合いながらでも、互いにオープンに何をどう考えているのかを知る状態を保っておく方がいいと考えています。断絶ではなく、対話や歩み寄りが重要です。

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