つまり、小説を書く第一の動機は「自分の経験の幅を広げること」で、その上に「読者とのコミュニケーション」という第二の動機が乗っているということですか。

上田:そうです。伝え方を考えることで、どういう経験を書くかという第一の層も変化する。相乗効果がある気がします。

 特に『ニムロッド』は、私の過去作を読んだのに途中でやめてしまった人や、芥川賞受賞作を敬遠している人にも読み通してほしいと考えて書きました。私にとっては読んでもらうための技術を向上できた作品で、多くの読者にとって私の小説への入り口となる作品になったと思います。

芥川賞を受賞し、作家としてひとつの区切りになったと思いますが、今後に向けてどんな目標を立てているのでしょうか。

上田:「フリーター」的な発想を持ち続けたいと思います。特定の仕事にこだわらず、これまでの経歴をすべて捨てても大丈夫な人になりたい。小説でもビジネスでも、思考とアウトプットの精度が高まることを第一に置きたいです。

 会社に入ったときも、IT業界にこだわりがあったわけではないんです。当時の社会情勢の中で、私のようなタイプの人間を拾い上げるのがたまたまIT業界だったということで、さらに10年前だったら出版社やマスコミだったかもしれません。

 私は表現し続けるだけです。それをどう世の中に出すのかを考えるのは編集者や会社の社長など、他の人に任せています。時代や状況にマッチする部分を誰かに拾ってもらうというのが、これまでの人生経験上、一番効率のいいやり方だと思うんです。

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