仮想通貨ビットコインを題材にした小説『ニムロッド』(講談社)で2019年1月に第160回芥川龍之介賞を受賞した作家の上田岳弘氏。実は、20代半ばでIT企業の立ち上げに参画し、現在も役員を務めるというビジネスマンの顔も持つ。なぜ二足のわらじを続けるのか。なぜ仮想通貨が文学になるのか。一見するとかけ離れたビジネスと文学のつながりについて尋ねた。

<span class="fontBold">上田岳弘(うえだ・たかひろ)氏</span><br />1979年兵庫県生まれ。早稲田大学法学部卒業。2013年、「太陽」で第45回新潮新人賞を受賞し、デビュー。15年、「私の恋人」で第28回三島由紀夫賞を受賞。16年、「GRANTA」誌のBest of Young Japanese Novelistsに選出される。18年、『塔と重力』で第68回芸術選奨新人賞を受賞。19年、「ニムロッド」で第160回芥川龍之介賞受賞
上田岳弘(うえだ・たかひろ)氏
1979年兵庫県生まれ。早稲田大学法学部卒業。2013年、「太陽」で第45回新潮新人賞を受賞し、デビュー。15年、「私の恋人」で第28回三島由紀夫賞を受賞。16年、「GRANTA」誌のBest of Young Japanese Novelistsに選出される。18年、『塔と重力』で第68回芸術選奨新人賞を受賞。19年、「ニムロッド」で第160回芥川龍之介賞受賞

芥川賞受賞作の『ニムロッド』の主な題材のひとつが、仮想通貨ビットコイン。なぜビットコインに関心を持ち、小説に取り入れたのですか。

上田岳弘氏(以下、上田):2017年末ごろビットコインの価格が高騰したのをきっかけに興味を持ちました。そもそも通貨というもの自体、虚構の側面が大きいですよね。金本位制でなくなってから、その傾向はより強まりました。しかし、これまでは国家が通貨の価値を保証することで、その虚構性が覆い隠されてきたのだと思います。

 一方、仮想通貨はその虚構性を隠そうともしない。虚構の存在が価値を帯びた結果、当時ビットコインの時価総額は10兆円を超えていました。それを目の当たりにして以来、現実とフィクションの間の「つなぎ目」として仮想通貨には注目するようになりました。

 ビットコインの提唱者がサトシ・ナカモトという日本名を名乗っていることも、すごく面白かった。彼が実際に日本人かどうかは分かりません。ただ、ビットコインを違和感なく文学に落とし込めるチャンスが日本人の作家に与えられているということだと思いました。『ニムロッド』では語り手の名前を「ナカモトサトシ」にしようと、第一に決めました。

勤務するIT企業の社長からビットコインのマイニング(採掘)を命じられる本作の語り手が、中本哲史(なかもと・さとし)。彼が恋人の田久保紀子や同僚の「ニムロッド」こと荷室仁と連絡を取り合いながらマイニングを進めていく様子が物語の本筋ですが、そこに荷室が書いた「駄目な飛行機コレクション」に関する文章や彼の小説が挿入されていく構成です。本作では何を目指したのでしょうか。

上田:『ニムロッド』には特定のメッセージを込めたというより、現実をさまざまな側面から活写することを目指しました。仮想通貨そのものではなく、それを取り巻く社会の状況を文学に取り込みたかった。その結果、虚構の上に成り立つ現代社会の「哀切さ」を浮き彫りにできたのではないかと思います。

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