新型コロナウイルス禍でベアゼロが相次いだ春の労使交渉(春闘)の賃上げ率は、8年ぶりに2%を割り込みそうだ。政府が企業に賃上げを要請する「官製春闘」は事実上終わり、今後はグローバル競争に勝ち残るため「ジョブ型雇用制度」を導入する企業が相次ぐ。賃上げ維持のモメンタム(勢い)復活には何が必要か。山田久・日本総合研究所副理事長/主席研究員に話を聞いた。

2021年春闘は大手企業の労使交渉で基本給を底上げするベースアップ(ベア)をゼロとするケースが相次ぎ、一斉賃上げの機運は失われました。

山田久・日本総研副理事長/主席研究員(以下、山田氏):最大の特徴は、安倍政権時に政府が賃金引き上げをけん引した2014年からの「官製春闘」が終わったことです。労使交渉の中で物事が決まる構図に戻ったのではないでしょうか。企業経営者はアベノミクス下で受けた賃上げ要請のプレッシャーを今年は感じていなかったでしょう。

 ただ、ベアゼロ続々といってもいきなり降って湧いた話ではありません。横並びで上げる「一律ベア方式」が難しくなってきたのは20年以上前からのことです。90年代終わりから2000年代初めには、春闘は個人やグループによって賃上げ額が異なることも許容する「賃金改善方式」に変わっていました。そうした意味では現在は2000年代半ばの官製春闘前に戻った状態にあります。

日本の賃金水準がかなり下がった

2000年代半ばは日本型の雇用慣行を見直し成果主義を採り入れ、年功賃金にメスが入り春闘ではベアゼロが続きました。賃上げの流れは消滅してしまうのでしょうか。

山田氏:従来型の、ある意味、横並びで上げていく形はもう限界だろうという機運が高く、今春闘でも賃上げ率が去年より下がった企業が多かった。しかし中には、トヨタ自動車のように賃上げ妥結額自体は去年より高いところがある。そういう企業もぽつぽつ出てきました。

 2000年代半ばの官製春闘前と何が違うのか。当時はアジアの賃金が低く、日本企業の財務体質も悪かった。経営者の間には「賃上げなんてもう論外」という雰囲気が広がっていた。これは労使の共通意識だったと思います。ただ、現在は新型コロナウイルスによる悪影響は大きいものの業績は堅調なところが少なくなく、財務体質もだいぶ改善しています。

 それから、国際的に見ても日本の賃金水準がかなり下がった。グローバルで競争する企業の経営者は、優秀な学生を確保して競争力を高めるために「賃金を上げる部分は上げないと駄目だ」という感覚に変わっています。

賃上げ率2%割れに、有識者会議で目標設定すべき

賃上げに動く業績好調組もいる一方で、国内主要企業では、ベアと定期昇給を合わせた賃上げ率は8年ぶりに2%割れとなりそうです。

続きを読む 2/4 ベアは時代遅れなのか

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