ワクチンだけでは「平時」には戻れない
そうした状況で、塩野義のワクチン開発はどのような段階にありますか。
手代木氏:2020年12月に治験を始めて、生産体制の構築も同時に進めています。4月からは生産設備を増強して、年間3000万人分のワクチンをつくれる体制を2021年中に整えます。ワクチンの開発と生産体制の構築については、当初計画からの遅れはありません。フェーズ3を実施するための体制はできています。
ただ、先ほどお話ししたように、現時点ではフェーズ3を実施することが難しくなってきている点がネックなのです。そのため、しっかりデータを取ってモニタリングをするのでフェーズ3の代替手段を認めていただけないかと、国に相談させていただいています。

国産ワクチンは安全保障上の観点からも重要だと指摘していますね。
手代木氏:例えば変異株の問題があります。インフルエンザウイルスも毎年、自然変異しています。世界保健機関(WHO)がそのシーズンに流行するのはこのウイルス株ではないかという予想を出しています。ワクチンメーカーは、それに合ったワクチンをつくっているんです。
日本で毒性の強い変異株が新たに出たとしましょう。そんなときに、日本株向けのワクチンを海外メーカーが迅速につくってくれるでしょうか。また、創薬国である日本が、新型コロナのワクチンを自らつくらず、海外から買い占めるような行為には批判がつきまといます。
国産ワクチンを提供できない現状では、国民を守るために政府ができる限りのことをして人数分のワクチンを確保するのは正しいと思います。しかし、この先もそれを続けていいのでしょうか。むしろ、世界的に見れば、日本はワクチンを供給する側に立つべきですし、その力はあります。世界も日本にそう期待しているのではないでしょうか。
中国は、アジアの国々に対してワクチンを供給することで関係を強化しようとしています。困ったときの助けがあってこそ、平時の関係が強化されるのです。我が国も、そういうことをもっと考えてもいいのではないでしょうか。
日本でもワクチン接種が始まっていますが、今がまだ「戦時」の状況だとすると、「平時」に戻るのはいつごろになるとみていますか。
手代木氏:ワクチンは決して、コロナ対策のゴールではないんです。ワクチンは1回打って終わり、という話ではなくて、安全性や有効性を継続的に判断していくために、中長期的にきっちりと接種した人の状況をデータベース化してフォローしていく体制も必要になってきます。
日本はかかりつけ医の先生方がいるので、本来はかかりつけ医で接種してもらい、何か異常があったら先生に相談するということができる体制が整っていますが、集団接種ではそれが機能しません。今後は、日本の医療体制を考えたワクチンを作ることが必要でしょう。とりあえず、急いで全国民にワクチンを打てば生活は正常化するんだ、という状況ではないのです。
ゴールは、診断薬、ワクチン、治療薬の3セットが具備されて、インフルエンザと同じような状況になって国民が安心して生活できるようになることです。一刻も早く安心して生活が送れるように、私たちもワクチンや治療薬、診断薬の開発に夜を徹して努力していますが、そのような状況になるのは22~23年ではないでしょうか。
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