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いよいよ明後日3月29日から、羽田空港の新飛行経路の運用が始まる。国際線の増便を可能にし、経済のさらなる成長につなげる狙いだ。約6500億円の経済波及効果と約4.7万人の雇用拡大を見込む。しかし、同時に、羽田空港が世界で最も危険な空港になる危険性をはらむ、との指摘がある。日本航空で長くパイロットを務めるかたわら、「パイロットの憲法」と呼ばれる安全規定の制定に携わった杉江弘氏に聞いた。

(聞き手 森 永輔)

羽田空港の新飛行経路は、人口密集地の上空を飛行する(写真:HIROYUKI OZAWA/アフロ)

いよいよ明後日3月29日から、羽田空港の新飛行経路の運用が始まります。杉江さんは元パイロットの視点から、安全に関する懸念を訴えます。どんな危険が生じるのでしょう。

杉江:都心部の人口密集地の上空を飛行する機会が増えることになります。部品などが落下すれば、人にけがを負わせたり、場合によっては命に関わる事態を引き起こしたりしかねません。騒音被害も拡大するでしょう。飛行機の乗客・乗員に身体的被害が生じることもあり得ます。ケースによっては着陸の難度が大きく高まるからです。

杉江 弘(すぎえ・ひろし)
航空評論家、元日本航空機長。1969年に慶応義塾大学を卒業して、日本航空に入社。ボーイング747の飛行時間は1万4051時間に及び世界一の記録。ハイテク機のE170にも乗務。首相フライトなど特別便を数多く経験。安全施策の担当者を務めた際には、スタビライズド・アプローチという「パイロットの憲法」の制定と普及に尽力。近著に『パイロットは知っている羽田増便・都心低空飛行が危険なこれだけの理由』。(写真:加藤 康、以下同)

具体的には、どのような場合に、どのような影響が生じ得るのですか。

杉江:大きく3つに整理できます。第1は南風・好天時の着陸です。これまで東京湾を東西に突っ切って羽田空港に至っていた飛行機が、新宿、中野、恵比寿、広尾といった街の上空を通過するルートに変わります。この着陸は難度が大きく高まります。降下角が3.45度と急になることと、着陸態勢に入る前に急旋回する必要が生じるのが理由です。

 第2は、南風時の離陸にB滑走路を使うことです。

 羽田空港にはA~Dの4つの滑走路が井桁状に設置されています(国土交通省のホームページ参照)。A滑走路とC滑走路は北西から南東に走るもので、この2本は平行する位置にあります(A滑走路が西側、C滑走路が東側)。B滑走路は北東から南西に走り、A滑走路の北西端の北側に位置します。D滑走路は、B滑走路と同じく北東から南西に向いています。場所はC滑走路の南東端の南側です。

 新飛行経路では、飛行機がB滑走路から南西に向かって飛び立ちます。この先には川崎のコンビナートがあります。これまで、同コンビナート上を3000フィート(約900m以下1フィートは約30cm)以下で飛行することは、国土交通省東京航空局が東京国際空港(羽田空港)長に通知を出して禁止していました。政府と川崎市も飛行禁止の合意書を交わしていた。これが解禁されることになったのです。コンビナート上に落下物が落ちる可能性が生じるわけです。

 第3は北風時の離陸です(国土交通省のホームページ参照、「北風時」のタブ)。C滑走路を利用する飛行機は現在、北西に向かって離陸した後、いったん東にかじを切り、千葉県船橋市辺りから北に向かいます。新ルートでは東にかじを切った後、荒川に沿って北上します。より都心に近いルートを飛ぶわけです。これによって騒音被害が広がる可能性が増します。このルートは、国内線では東北や北海道に向かう便、国際線では欧州に向かう便が多くを占めます。