周りにいくらでもある水から、水素を作れない理由

さて、ここまで有機ハイドライド法のお話をお聞きしながら、いきなり初歩の初歩の質問で申しわけないのですけれど、「空気や川や海になんぼでもある水素を、何でまたブルネイ・ダルサラームから持ってこなきゃいかんのだ」という点を教えていただきたいのですが……。

長井:実は水素は、自然界には「水素だけ」の状態では基本的には存在しません。それは水を分解して取るとか、ハイドロカーボン……炭化水素ですね。炭素原子と水素原子だけでできた化合物で、石油や天然ガスの主成分ですが、そういうものから炭素を分離して取るとか、そういう方法で工業的に入手している。

石油や天然ガスはともかく、日本には水はいくらでもあるじゃないですか。

長井:そうですね。じゃあ、なぜ日本で作らないのか、ということですよね。水から水素を作るのは水電解法、水の電気分解でやります。電気分解をやるときに、ネックになっているのは電気代です。日本の電気代というのは世界的に見て非常に高いわけです。

えっ、それが理由なんですか。電気代の高さ。

長井:はい。そもそも電気を作るためのエネルギーを、石油やLNGなどのかたちで輸入しなきゃいけないわけですから。

いや、でも、新しく反応プラントを水素の生産国に建てて、船を仕立てて、日本に持ってきてそれを水素に戻す、ここまで新しく作っても折り合ってしまうくらい、日本の電気代は高いんですか。

長井:そういうことですね。

うーん……そうでなければ誰もこんな技術開発をやらない、か。

長井:電気だけで考えれば、例えば、再生可能エネルギーのコストがもっともっと下がるのであれば、「電気に関しては再エネでいいのではないか」という考え方もあると思います。

 ただ、燃焼による熱が必要な場合、水素ではない燃料だとCO2がほぼすべてで発生してしまいます。水素を水素として使える燃料電池、そしてクリーンな燃料、こういったものに使われる用途では、水素は有用です。そういう需要が立ち上がった場合、資源の問題、電気代の問題から、どう考えても日本国内で作るより、海外から大量に持ってきたほうが安い、ということですね。

このプロジェクトの水素はブルネイでLNGを生産する際の、副産物的なガスから。

長井:はい、C(炭素)とH(水素)からできているハイドロカーボンからHの部分だけ「水蒸気改質」という工程を経て取り出しています。

一本杉:ただ化石燃料から取り出す場合は、CO2を同時に排出しますので、そのCO2の処理について考慮しなければなりません。最終的には、やはり再生可能エネルギーを使って取り出した水素を使う、というようなところを目標にしています。

再生可能エネルギーを使って水素を取り出すというのは、電気分解の……。

長井:そう、電気分解で使う電気を。

再生可能エネルギーで賄ってという意味ですか。

長井:そういう意味です。

一本杉:太陽光とか風力、あと水力発電などですね。

そういえば、「再生可能エネルギーは発電量が安定しにくいから、需給調整のために優秀なバッテリーが必要」と言われますが、もし再生エネルギーによる電気が余ったら、これでがんがん水を分解して水素を作って、MCHで保存すればいいんじゃないでしょうか。乱暴すぎますか。

長井:考え方としてはあると思います。再生エネルギーで発電した電気は、そのままダイレクトに電気として使ったほうが当然ながら一番安い。とはいえ、今後はおそらく再生エネルギーの発電比率も高くなり、それゆえに、余るときも多くなるし、量も増える、そうならなきゃいけないと思っています。

 余剰が出たとき、それからちょっと足りないとき、これの両方をカバーしていくのに、一番有効なのが水素。水素社会を推進していく方々の中でも、そういう認識は強いですね。

水素を燃やすガスタービン発電へ

そもそもの話になって恐縮なんですが、エネルギーを貯蔵する形態として、水素というのは、いわゆる化石燃料、石油や天然ガスと比べるとどうなんでしょうか。例えば容積当たりのエネルギー量が大きい、小さいとか。

長井:石油や天然ガスは、含まれている炭素(C)をエネルギーとして使いますので、高い密度でエネルギーを貯蔵、輸送できます。これはもう、既存のエネルギー源が有利です。

やはりそういうものなんですね。

長井:はい。ただし、炭素を燃やす、酸素(O)とくっつけて燃焼させることでエネルギーを引き出すので、CO2、二酸化炭素の排出が避けがたい。二酸化炭素を減らすことは「化石燃料をいかに使わないか」に直接的に結び付いている。

 そういうことになると「燃焼」を行わないで電気を作り出す水素の燃料電池がある一方で、ガスタービン発電の燃料にLNGだけでなく水素「も」使う混焼方式の開発が進んでいます。これは最終的には、水素専焼、水素ガスタービン発電へと進むことで、完全にCO2フリーの発電が可能になるわけです。

燃焼してもCO2が発生しない……HとOがくっついて生まれるのは水(H2O)だからですね。そこまでいけば水素の大きな需要が生まれ、最初に伺ったこの輸送システムの特質が生かされる、と。よく分かりました。ありがとうございました。

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