長井:そうですね。(水素燃料の使用に)対応できる国、できない国が出てくるでしょう。これまた余談ですけれど、中国でも燃料電池自動車というか、バスが走っているのですが、彼らは35メガパスカルを基準、規定にしているんですね。

「車に積む水素のタンクが35メガパスカル対応であれば、国内技術で対応できる。70メガパスカルだと厳しい」ということですね。

長井:はい。70メガパスカルになれば同じサイズの燃料タンクで航続距離が倍になるわけですが、まだなってない。

それだけの差がある。「中国じゃ、とっくに水素でバスが動いてます」と言われると焦りますが、キーアイテムでまだずいぶん差があるということですか。

長井:いや、それぞれの技術では差はあるのですけど、運用は大きな国だと圧倒的に動きが速い。

一本杉:ステーションの数でいえば、おそらく今年中に日本を抜くのではないですかね。

長井:今、日本のステーションが110カ所ぐらい。始まったのは中国のほうが3年ぐらい遅かったですけど、あっという間に追いつこうとしています。技術もどんどん進んでいるので、そんなに遠くないうちに似たレベルにはくるでしょう。

千代田化工が触媒を開発できた背景

技術といえば、そもそも御社がなぜこの有機ハイドライド法を始めたというか、目を付けられたんですか。

長井:弊社は触媒の技術開発を自社でずっとやっている歴史がありまして。

プラントエンジニアリングの中でですか。

長井:はい、石油・石油化学業界において必要な触媒開発をやってきたのです。

左上の人物は千代田化工の創業メンバーで、1957年から社長を務めた玉置明善氏。出所:千代田化工 
左上の人物は千代田化工の創業メンバーで、1957年から社長を務めた玉置明善氏。出所:千代田化工 
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長井:今回、我々が適用している有機ケミカルハイドライド法は、もともとヨーロッパで発案され、成功すれば非常に有効だと文献にも書かれていましたが、残念ながら脱水素反応の触媒が工業レベルに至らずに、開発が止まってしまいました。

 それは我々も知っていましたが、クリーンエネルギーへの需要が高まる中、「こういうことにトライしたら開発ができるんじゃないか」と声が上がりまして、開発を始めて成功に至ったので、その技術をもって事業化していこうと。

 我々はエンジニアリングコントラクターですけれども、設計から建設という事業に加えて、引き渡しで終わりではない、継続性のある事業分野にも入っていきましょう、という考えも、会社としてかなり前から出ていました。こういう新しい技術を創出したことで、我々もエネルギーインフラの事業に参入できるのではと考えて始めた。そんなヒストリーになりますね。

何年くらいから始められたんですか。

一本杉:まず、触媒の開発自体は1970年代から有機ハイドライドとは別の目的で始めまして、今回の脱水素で使う触媒は……どのくらいからでしたかね。

長井:2002年ぐらいから基礎研究が始められていて、実験室規模での長時間試験での検証に成功したのが2012年ぐらいですね。その後、規模のより大きなパイロットプラントで実証実験を行いました。

有機ハイドライド法の触媒の開発課題はどこにあったのでしょうか。反応そのものはするんだけれど、得られる水素の純度が低いよ、とか、あるいは、反応そのものがまったくできないところから始まった、とか。

長井:それまで研究されていた触媒は、脱水素反応はするのですが、2日も経つともう触媒として機能しなくなるとか。

劣化が速いんですね。

長井:再生処理をして長くもたせても1週間とか、そういう触媒しかなかったのです。弊社ではラボベースですが1万時間連続で触媒を使用しても、95%以上の性能を維持できることが検証できています。これまでとは比べものにならない安定性の高い触媒、ということになります。

プラント構築に独自の「ひと味」を足せる

ちょっと横道ですが、「触媒の開発」自体が、プラントエンジニアリング会社さんのお仕事としては異色ではありませんか。機材を買ってきてアッセンブルするのがよくある姿では。IT系でたとえて言うと、システムエンジニアさん的なものかと思っていたんですけど、触媒の開発というと、化学反応のキーアイテムでしょうから、「うちはシステムエンジニアリングの会社だけど、CPUから作っちゃえ」みたいな感じがするんですが、その辺は。

長井:本当におっしゃる通りだと思います。実際、エンジニアリング会社といわれている企業さんの中には研究開発部門を持ってない会社もありますし、持っていても、触媒には手を出してない会社もあります。

あ、触媒の専業メーカーさんがあって、そこから買ってくるのが普通なんですね。

長井:そういうことです。弊社は創業初期から「多くの石油や化学、環境プラントの構築で核になるのは触媒技術だ」ということで、脈々と弊社独自の触媒の開発、顧客ニーズに沿った技術改良などを続けてきました。

営業戦略としても有効なんでしょうね。

長井:そういう例もありますね。触媒の性能が高いことは、プラントの能力や経済性向上、安全性の確保にも効きます。

 ただ、誤解されないよう申し上げておきますと、触媒の技術は弊社にとっては特別であって、それ以外の技術まで自社でやったほうがいいというようなことは思っていませんし、エンジ会社というのは、多くの会社の技術をうまく組み合わせてコーディネーションできるというのがノウハウだ、と思っています。そこの能力が競争力の最大の源泉ですね。この技術はたまたま触媒絡みの話なので、弊社の独自技術ですけれども。

なるほど。とはいえ独自技術という「この店のひと味」があるのとないのとでは雲泥の差になることもありそうです。

長井:弊社として、同じエンジ会社の中でも差別化が何かでできてないといけません。そういう意味では触媒は1つの大きなポイントになっています。

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