ブランドをつくること自体には賛成であっても、どんなブランドをつくるかとなると意見がまとまらないことがある。ではどうすべきなのか。日本マーケティング学会会長で中央大学ビジネススクール教授の田中洋氏に最近の動向と合わせて聞いた。

企業にとって、ブランドはどのような状況にあるでしょうか。
田中洋氏(以下、田中氏):少し前になりますが築地市場が豊洲に移転したとき、東京都の小池百合子知事が「築地ブランドを大事にしよう」と言っていました。ブランドは大切にすることには誰も反対しません。しかし、では具体的に築地をどうするかとなるとさまざまな考えがあります。これはブランドの置かれた状況を象徴していると思います。小池知事の築地の「食のテーマパーク」についての最近の発言が話題になったのも、こうした状況を反映しているでしょう。
企業でもブランドという言葉は広く知られ、ブランドに取り組むこと自体には皆が賛成です。ではブランドをどうしようかと考えているうちに議論が百出します。ブランドは多くの人の関心事になってはいますが、アクションレベルとなると、なかなか前に進めなくなるのです。
改めてブランドづくりとはどんなことなのかを整理して捉える必要があると思います。
私はブランドを消費者の頭の中にある商品の認知システムだと捉えています。例えばハンバーガー店の場合、「どの店に入ろうか」と考えたとき、やはり典型的なハンバーガー店を選ぶことが多いのです。
なぜこうなるかといえば、当然ですがそのカテゴリーについて典型的なものとそうでないものを頭の中で分けて捉えているからです。これが認知システムです。同じことがブランドにも起こっていて、それぞれのカテゴリーにおいてよく知られたブランドとそうでないブランドがあります。認知システムを通してみると、ブランドの働きはよりよく理解できると思います。
これに対して、例えばブランドを商品の名前だと捉えた場合、それ以上議論が進まなくなります。ブランドについて議論しても「ブランドの名前がダメなのではないか」「名前をよくすればいいのではないか」となるだけだからです。ブランドづくりによって、消費者の頭の中にある認知システムを変えようと考えれば、もっと違ったアイデアが浮かんでくるはずです。
ブランド研究の立場から、どんなブランドに注目しているでしょうか?
田中氏:大阪市の中堅企業I-neのヘアケアブランド、ボタニストです。この分野は大手企業がしのぎを削っていてテレビCMを活用しながらブランドづくりをしてきたのですが、このブランドはSNSと口コミによって知名度を上げました。
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