1月30日午前、日本取引所グループが東証マザーズ指数先物の売買を一時中断するサーキットブレーカーを発動した。ある銘柄の失望売りが原因だった。それが創薬ベンチャー、サンバイオ。前日の夕方に新薬の臨床試験で狙い通りの効果が出なかったと発表。期待が高かった分、市場の失望も大きかった。取材に応じたサンバイオの森敬太社長は「創業から18年の中で、大きな試練」と話す一方、「可能性は絶たれていない」と開発継続を宣言した。

2001年に創業したサンバイオは脳神経を再生する医薬品を武器に成長、15年に東証マザーズに上場した。昨年11月には交通事故などで脳にダメージを受けた「外傷性脳損傷」の患者向けに、再生細胞薬「SB623」が運動障害の後遺症を緩和させる効果があったと発表。株価は急上昇し、東証マザーズの時価総額トップ企業に躍り出ていた。
1月29日に発表したのは、同薬で進めていた別の治験結果だ。この治験では国内に約100万人の患者がいる「慢性脳梗塞」の患者で試したが、効果がなかった。ただ、森社長は「薬の濃度、投与方法など、どこかに(効果が出ない)原因があるのかもしれない。薬をより高い濃度で投与するなど、(治験のやり方の)工夫はある」と強調する。
実際、再生医療に詳しい京都大学ウイルス・再生医科学研究所の角昭一郎准教授は「外傷性脳損傷も慢性脳梗塞も、脳の組織がダメージを受けているという点では病態が同じ。(サンバイオの新薬は)外傷性脳損傷で効果が出ている以上、慢性脳梗塞で効果が出なかったのは何か理由があるはずだ」と指摘する。細胞を浸した溶液の粘性や、注入の仕方次第では「効果が得られる可能性はある」と角氏は言う。
「今回の結果は非常に残念だった」と森社長は語るが、それでも治験で効果が得られなかった慢性脳梗塞の治療薬としての開発を「今後も継続する」と力を込める。
株価急落を受け、市場では「サンバイオから追加の情報開示があるまでは積極的な判断は難しい」(証券アナリスト)との声も上がる。サンバイオにとっては、まずは失敗した治験結果の解析を進めて、研究を前進させるしかない。
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