ロシアのウクライナ侵攻で混乱する首都キエフでシャッターを切り続ける香港人カメラマンのカオル・ン氏。キエフでは政府が市民に銃を配り軍事トレーニングを実施。家族を守るために子どもが使える銃を買う人もいた。ロシアのスパイが市内に潜入しているとして緊張が高まっており、カオル氏も撮影中、自警団から背中に銃を突きつけられたという。

(インタビューは現地時間の2月28日朝に実施した。聞き手は石井大智)

大きな荷物を抱えながら母親と子供が列車を待っていた
大きな荷物を抱えながら母親と子供が列車を待っていた

どのようにウクライナに入ったのでしょうか。

カオル・ン氏(以下カオル氏):私は香港と英国で育ちました。かつて日本に住んでいたこともあり、2019年からの香港デモでは日本メディア向けに写真や映像を撮影してきました。20年8月から、ベラルーシでの反政府デモも取材し蘋果日報(アップル・デイリー、21年6月に廃刊)などの香港メディア向けにも写真や記事を提供。その後、英国に移民して活動を続けています。

 ウクライナに入ったのは2月18日。飛行機でロンドンからキエフに到着しました。西側メディアで報じられる戦争への危機感が、街の人々の間で実際にどう共有されているのかを伝えたいと思いました。特に仕事の当てがあったわけではなかったのですが「ウクライナに行く」とフェイスブックに投稿した後に英国の新興メディアから仕事をもらうことができました。ウクライナに来てからは、日本と香港のメディアからの取材を受ける機会も多いですね。

カオル・ン氏
カオル・ン氏

ATMで出金制限、お店の大半はクローズ

食料など生活物資は入手できますか。

カオル氏:ロシアの侵攻開始後に外出禁止令が出されるようになったためか、ほとんどの商店が閉まっています。どの商店が開いているかはネット上で共有されています。地下に避難して営業している商店もあると聞いたことがあります。人がいなくなった商店への盗みもあったようで、滞在先の近くにあるスーパーマーケットでは入り口が破壊されていました。

 私自身はウクライナ入りしてから出会った戦場ジャーナリストたちと行動を共にしています。彼らは、空爆前の段階で大量の食料を確保していたので、その食料を譲ってもらっていながら暮らしています。

水道、電気などの生活インフラはどうでしょう。

カオル氏:水道、電気、ネット、携帯電話回線は、今のところいつも通り使えています。

銀行ATMからお金を引き出すことはできるのでしょうか。

カオル氏:ロシアの侵攻が始まってからATMには引き出し限度額が設けられ、人々は何度も並んで現金を引き出しています。ただし、そもそもお店が開いていないので、現金を使う機会は多くありません。

外出は可能でしょうか。

カオル氏:公共交通機関の多くが動いていないため(注:3月1日に一部の地下鉄が運転再開)、クルマなしでは長距離の移動はできません。国外に脱出できるように鉄道は動いているのですが、キエフ中央駅まで荷物を持って歩けないという人が多く、ヒッチハイクをする姿を見かけました。

 この週末は外出禁止令が出ている時間が長いため、有効に使える時間が限られていました。市内ではウクライナ人の自警団がボランティア的に結成されており、ロシアのスパイを警戒しています。外出禁止令が出ている時に街を歩くと、スパイと間違えられて銃撃されるリスクもあります。私は外出禁止令が出ていない時間に鉄道駅で写真撮影をしていたところ、怪しまれて背中に銃を突きつけられました。所持していた英国パスポートを見せたらすぐに解放してもらえましたが。自警団は本格的な軍事訓練を受けたプロではないので、冷静さを失う可能性を考えると少し怖い面もありますね。

一般人が銃を持っているのですね。

カオル氏:先週、ライセンスなしで銃が購入できる日が設けられ、子ども用や女性用も含めて多くの人が銃を買っていました。空爆が始まってから、街中に大量の銃を積んだトラックがやってきて主に男性に対して配布していました。身分証なしでも簡単に受け取れる状況でした。

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