2月24日、ロシアが隣国のウクライナに軍事侵攻した。主要7カ国(G7)首脳は同日に緊急協議を開催、ロシアへの金融・経済制裁の実施を決めた。日本も金融や輸出制限などで欧米諸国と足並みをそろえる。新型コロナウイルス禍の爪痕が深く残る世界経済に、ロシアの軍事侵攻はどのような影響を及ぼすのか。野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏に、日本経済や世界の市況への影響を聞いた。

木内登英(きうち・たかひで)氏 野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト
木内登英(きうち・たかひで)氏 野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室に配属。エコノミストとして職歴を重ねた。90年に野村総合研究所ドイツ、96年に野村総合研究所アメリカで欧米の経済分析を担当。2004年に野村証券に転籍し、07年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして日本経済予測を担当。12年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策およびその他の業務を5年間担った。17年7月より現職。

ロシア軍によるウクライナ侵攻が世界や日本に与える影響をどのように見ていますか。

木内登英氏(以降、木内氏):やはり一番大きな影響は天然ガスや原油などエネルギー価格の上昇でしょう。特に原油高は実体経済へのマイナス影響が出やすい。世界的にリスク回避のムードが高まって株式市場では売り圧力が強くなります。外国為替市場では安全資産とされる円に買いが入りやすく、主要通貨に対して円高が進むでしょう。

 円高が1割ほど進んだとしても、原油価格が7~8割も高くなってしまえばエネルギー価格の高騰分は補いきれません。むしろ円高が輸出企業に与える負の影響が大きくなる。日本にとって「原油高」「円高」「株安」という3つのマイナス要因が経済回復の重荷となります。

 原油高は以前から起こっていますが、ロシア軍のウクライナへの軍事侵攻はそれを加速させるインパクトがあります。日本に限らず世界経済にも逆風が吹きます。基本的にG7がロシアに対してどのような制裁措置を打ち出すかによって、市況が大きく動く状況が続くとみています。

中長期的なバルト3国への波及も警戒

ロシアへの金融・経済制裁の結果、主要国も大きな痛手を被るのですね。

木内氏:ロシアへの経済制裁は段階的に打ち出されてきました。米国はまずロシア最大の金融機関の取引を制限すると発表。加えて、米国は日本や欧州連合(EU)と協調しながらハイテク製品の輸出を止めることも決めました。国内産業の育成に力を入れるロシアの成長の芽を摘む制裁措置となるため、将来的にかなりの打撃になるでしょう。半導体はアジア地域が最大の生産地なので、アジア諸国と米国が手を結んで制裁をすればその効果は大きくなります。26日には欧米の主要国が、ロシアの大手銀行を国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除する金融制裁を科すことで合意しました。

 ロシアはウクライナ全土の制圧を否定していますが、首都キエフを陥落させたとしても、ウクライナ軍が全土に散らばっています。軍事施設をミサイルなどで攻撃した後に地上部隊を送り込んで制圧しなければ完全には鎮圧できません。主要国もウクライナが降伏しない限りロシアの侵攻はやまないとみています。

 金融・経済制裁はいったん強化すると簡単には後戻りができません。それでも欧米の主要国が厳しい制裁を科すのは、今回の侵攻がウクライナだけにとどまらず、将来的に他の地域にも波及する可能性があるからです。14年にウクライナ南部のクリミア半島を併合した際はロシアが同地を実効的に支配しました。同様にウクライナ全土を取り込む可能性があり、それが実現した場合は中長期的に、旧ソ連の構成国で現在はEUに加盟しているバルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)に次の矛先を向けかねません。

 ロシア軍がチェルノブイリ原子力発電所を制圧しています。北大西洋条約機構(NATO)が軍をウクライナに派遣する選択肢が全くないわけではないと思いますが、まずはG7によるロシアへの金融・経済制裁措置がさらに厳しくなっていくとみています。

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