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 日本でもM&A(合併・買収)が盛んになってきたが、結局、経営がうまくいかないことも少なくない。組織コンサルティング大手の米コーン・フェリーのデニス・ケアリー副会長は、原因の多くは、相手先の人材について認識不足だからだと主張。企業の持続的な成長を実現するには、人材を中心にした新たな経営の仕組みが必要だという。(聞き手は本誌編集委員 田村賢司)

人材を選び、育成することこそ、経営戦略の中で最も重要なことだといわれています。これまでの企業経営のどこに問題があったのでしょう。

米コーン・フェリーのデニス・ケアリー副会長(以下、ケアリー):米国企業を例にとって話しましょう。20年前、M&Aの7割は失敗していました。今はもう少しよくなりましたが、まだ失敗は多い。ではなぜそうなっているのでしょう。一言でいうと、買収する企業側が買収先企業の人的資本について認識不足だからです。

デニス・ケアリー氏
コーン・フェリー副会長。フォーチュン500を構成する優良企業のCEOや取締役の採用、アセスメント(人材調査)などに腕を振るってきた。2019年10月、『TALENT WINS 人材ファーストの企業戦略』(日本経済新聞出版社)を共著で出版した。(写真:大下美紀、以下同)

 保険・投資会社、バークシャー・ハサウェイを経営するウォーレン・バフェット氏は、世界中で最も多くのM&Aを成功させた1人ですが、通常M&Aを考える際に最も重要視する財務や資産の状況以上に、相手側にどんな人材がいて、どういう組織になっているかについて知る必要があると言っています。ところが、実際には買収先の人材について深く把握している企業はほとんどないのです。

恋に落ちたように急いで判断するのはよくない

買収先企業の人材の何を知る必要があるということですか。

ケアリー:買収を考えた際に対象企業の人材の誰が買収後も残り、誰が去っていくかのを把握しているか。(投資やM&Aの前に対象を調査する)デューデリジェンスはやっていても、こうしたことは調べていないのです。買収対象として考えるくらい優れた会社なら、その成功をもたらした優秀な人材が、買収による環境の変化を嫌ってやめるという事態はいつでも起こり得るにもかかわらずです。

調べ方に問題があるのですか。どうすればいいのでしょう。

ケアリー:バフェット氏は、M&Aを実行するかどうか判断する際に、(十数人いる)バークシャーの役員に外部の投資銀行の人たちを交えて2つのチームをつくり議論をさせるそうです。2つのチームとは、その買収や投資を実行すべきだとするチームと、反対するチームです。それぞれのチームは、最初から決めた方向で、事前の調査を基に議論を戦わせるのです。

 相手先の企業にいる幹部などの人材は、今後必要なのかそうでないのかを、それぞれのチームが考え、意見をぶつけ合うわけです。そうしたことを通して、どういう人材は残さなければいけないか、去ってしまうリスクはどの程度かなどを検討するのです。

 M&Aに当たって財務的な状況や法的な問題などは、把握するはずです。企業文化などについても少しはやるかもしれませんが、人的資本についてはほとんど把握できていないのです。この方法をとっているバークシャー・ハサウェイは、95%のM&Aや投資を成功させています。