プロ棋士をもしのぐ実力を持つ将棋AIソフトは、どんな人が、どのような思いで作っているのか。後編の今回は、将棋AIが苦手としている点から、将棋AI時代の戦い方、今話題の藤井聡太王将(五冠)VS羽生善治九段の王将戦七番勝負の話まで聞いた。

(前回の記事はこちらを参照)

(写真:伊藤 菜々子)
(写真:伊藤 菜々子)
杉村達也氏
本八幡朝陽法律事務所弁護士
1986年千葉県生まれ。慶応義塾大学法学部法律学科、千葉大学大学院専門法務研究科を卒業後、2014年に弁護士登録。千葉市内の法律事務所にて一般民事・労働問題・中小企業法務などの案件を経験後、19年4月から本八幡朝陽法律事務所に参加。千葉県弁護士会法律相談センター所属。自身が開発するAI(人工知能)搭載の将棋ソフト「水匠(すいしょう)」は、22年12月に開催されたオンライン将棋の世界大会「第3回世界将棋AI電竜戦本戦」で優勝。同ソフトは藤井聡太五冠や渡辺明名人をはじめ、多くのプロ棋士らが将棋の研究に使用。

将棋AIソフトはその局面の最善手を導き出しますが、自分が不利な局面で相手のミスを誘うような逆転の妙手は出せるのでしょうか。

杉村達也氏(以下、杉村氏):将棋ソフトは人間の盲点を突くようにはできていません。有利な局面から勝つのはとても得意ですが、不利な局面を逆転できるかと言えばそうではない。勝つには相手に間違えさせないといけないのですが、そういうところは苦手です。

 将棋ソフトは「相手は全てに気づくだろう」(うっかりミスをするような手は指さない)ということを前提に指し手を考えるので、どれだけ粘っても勝てることはないのに、手数だけを伸ばすような状況になりがちです。「人間の盲点を突いて逆転する」ような手は、やはり人間が勝っているところです。

 とはいえ、今後はそういった部分も研究が進むと思っています。どうしてかと言うと、今、評価値だけではなく「難易度」も表示したら面白いんじゃないかと、将棋AIかいわいではいわれているからです。評価値はその局面の勝ちやすさを示す指標ですが、難易度はその局面から次の一手を指すのがどれだけ難しいのかを数値化するものです。

 「逆転の一手」という意味では、難易度が高い手は「相手が読めないもの」と見なして、その手は指さないことを前提に指し手を考えさせれば、逆転の一手も導きやすくなると思います。

 現在、将棋ソフトが提示する評価値や勝率は「この手を指すと何%勝てる」というものですが、それを超えて「その一手を指すのがどれだけ難しいか」という難易度も分かるようになると、より面白く観戦できるようになるでしょう。「それほど難しいにもかかわらず、その手を指せた」となれば、「すごい!」となりますから。

そうなると、面白いですね。実現の可能性はどれほどですか。

杉村氏:「若干できつつある」と言えます。人間が指した棋譜をたくさん学習させることで、「人間だったらこの手しか思いつかないよ」というところも数値化できると思うので、それをやっていけば実現できると考えています。

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