就活情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアが、学生の了承を十分に取らずに「内定辞退率」を算出し、企業に販売していた問題で、同社の小林大三社長が初めてメディアの取材に応じた。

2019年12月、個人情報保護委員会はリクルートキャリアに対して2度目の是正勧告を出すとともに、販売契約を結んでいた37社に対して行政指導した。しかも、実際にデータを購入したトヨタ自動車や三菱商事など35社の社名公表に踏み切るという異例の対応だった。2020年には個人情報保護法の改正が予定されており、この問題の再発防止策をどう盛り込むかが焦点になるなど、問題はまだ収束していない。

これまでリクルートキャリアは「ガバナンス不全」と「学生視点の欠如」が原因だったと説明してきたものの、その詳細については語ってこなかった。小林社長は、「全ての問題は経営にあった」という前提で、本誌に問題の本質を打ち明けた。

同社は、新卒採用のインフラの一つであるリクナビを運営しているという立場から、日本型雇用の弊害や、新卒一括採用という特殊なマーケットの今後について、これまで明言を避けてきた。小林社長は、リクナビの今後に関連して、こうした「雇用のあり方」についても初めて口を開いた。

まずは改めて、リクナビを利用していた学生や企業に対しての、今回の問題を踏まえた社長としての考えを教えてください。

小林大三・リクルートキャリア代表取締役社長(以下、小林):そうですね……。結果として、様々な方にすごく大きなご迷惑をおかけしました。学生が就職活動に相当なプレッシャーや不安を感じているなかで、それをあおることになってしまいました。応援する大学や保護者も含め、もう説明もできないくらいの問題を起こしてしまいました。

 それから、リクナビというサービスを信じて使ってくれていた企業も、個人情報保護委員会による社名公表も含めて、世間からの批判にさらされることになってしまいました。弁明の余地もありません。それくらい大きな問題だったと捉えています。

<b>小林 大三氏</b><br><b>リクルートキャリア代表取締役社長</b><br>1991年4月にリクルート入社。広報室、新規事業開発室、経営企画室などを経て、2007年にインターネットマーケティング局局長に就任。2009年より全社マーケティングとIT部門を統合したMIT(Marketing & IT)局の局長を務め、2012年の分社化時に、リクルートテクノロジーズ代表取締役社長に就任。リクルートのIT戦略室長を兼務。翌2013年4月よりリクルートホールディングス執行役員として事業統括室室長を担当。2017年4月、リクルートキャリア代表取締役社長に就任。2018年よりグループ執行体制変更に伴い株式会社リクルート執行役員として兼務。2019年リクルート常務執行役員(HR事業本部)に就任。現在に至る(写真:吉成大輔)
小林 大三氏
リクルートキャリア代表取締役社長
1991年4月にリクルート入社。広報室、新規事業開発室、経営企画室などを経て、2007年にインターネットマーケティング局局長に就任。2009年より全社マーケティングとIT部門を統合したMIT(Marketing & IT)局の局長を務め、2012年の分社化時に、リクルートテクノロジーズ代表取締役社長に就任。リクルートのIT戦略室長を兼務。翌2013年4月よりリクルートホールディングス執行役員として事業統括室室長を担当。2017年4月、リクルートキャリア代表取締役社長に就任。2018年よりグループ執行体制変更に伴い株式会社リクルート執行役員として兼務。2019年リクルート常務執行役員(HR事業本部)に就任。現在に至る(写真:吉成大輔)

2019年8月に開いた会見では、問題の原因として「ガバナンス不全」と「学生視点の欠如」を挙げました。まずガバナンス不全について聞かせてください。なぜ「リクナビDMPフォロー」というサービスは責任者不在でリリースされ、このような問題を起こしてしまったのでしょうか。

小林:もともとリクルートは、それぞれのステークホルダーに向かっている現場から、それぞれの「不」を解消し「価値」を生むようなアイデアや事業がボトムアップで上がってくる。それが我々のやり方です。

 そして現場から上がってくる様々なアイデアを、サービスのリリース段階になると、誰が責任者で、何かの問題が生じたときにはどういうフローで対処するかを決めます。今回も、誰が責任者なのか分からないという状況ではありませんでした。ですから、報道されている「責任者不在」というのは少し違います。

 3つの事象がかけ合わさって問題が起こったと考えています。まず、DMPフォローは研究開発段階のサービスであり、通常のサービスであれば通るチェックのフローが整理されていませんでした。例えば通常商品である、エリア限定の小冊子やウェブサイトを作る場合、編集面で表現上の問題はないか、システムに脆弱性はないか、契約の結び方は適切かなどを網羅的にチェックするフローが構築されています。

 研究開発段階のサービスで、こうしたフローが整理されていなかったため、事業部門である個々の組織が協力しながら「今回はこういう(チェックの)進め方をしよう」ということを決めていた。その進め方に、通常のサービスに比べて緩い部分がありました。

リクルートでは、研究開発段階でリリースするサービスは他にも多いのでは?

小林:DMPフォローの問題が発覚した後で、我々はその他の研究開発段階のサービスを全てチェックしましたが、問題は見つかっていません。

 研究開発という、通常よりもスピードを重視するサービスだったこと。これが1つ目です。

 2つ目は、個人情報やデータの利活用というテーマが含まれていたこと。このテーマは法律の解釈が非常に難しい。しかし、我々は担当者だけで判断してしまった。法務部門への相談はもちろん経ていましたが、こうした難しいテーマに対しては、リクルートグループ全体で取り組むべきでした。

 GAFAを巡る議論を含め、世の中のデータに対する認識が移り変わっている世界のなかで、法が後を追いかけながら整備されていくという状況です。そういうテーマなんだと自覚すべきだったし、そういうチェックの設定をすべきでした。

 3つ目は、新卒領域がセンシティビティ(敏感さ)の非常に強い分野で、そこで「内定辞退率」という言葉が持つ響きや、その言葉がかきたてる不安……。これらに対する感度が鈍かったこと……。

 この3つがかけ合わさって起こるべくして起こった問題だと認識しています。

続きを読む 2/5 リリース当時の私は、問題に気づけなかった

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