現行法を守るだけでは問題は防げない

関連して、リクナビの今後について聞かせてください。新卒一括採用に疑問の目が向けられているなかで、このサービスはどんな「価値」を社会に提供していきますか。

(写真:吉成大輔)
(写真:吉成大輔)

小林:リクナビは日本の新卒一括採用を支えるサービスです。おっしゃる通り、今後、新卒一括一辺倒ではなくなっていくでしょう。ただ、消えるわけではないとも思っています。リクナビは一括採用部分を支えるサービスであればよく、それ以外のマッチングサービスが次々に生まれるでしょう。リクルートが別のサービスで一括採用以外の部分に価値を提供していくこともあり得ます。

 リクナビも進化させたいと考えていますが、新卒採用のマッチングを全てこのサービスでやっていきたいとは思っていません。

つまり、全体のパイが小さくなるなかで、事業は縮小していくと。

小林:縮小するかどうかを検討することさえ不毛だと考えています。なぜかというと、企業がグローバル競争のなかで、「新卒と中途を同じ土俵で採用することに競争力がある」と判断すればそうなるし、「いや、一括採用のほうが効率的だ」と判断すればまだまだ一括採用は残る。実際に、この数年は一括採用がどんどん拡大しているんですね。この市場は今後も流動的でしょう。リクナビと別のサービスの総和で成長したいと考えています。

新卒市場に限って言えば、リクナビのビジネスは手間がかかりリクルートの事業のなかで利益率は高くないように見えます。そこまでして、この事業を続ける意味は? 今後ももうかるという見立てなのか、ある種の公共サービスとなったことの責任でしょうか?

小林:新卒領域でマッチングビジネスをするのは、僕らの使命なんです。ですから新卒に関しては、僕らのドメインとして今後も続けていきます。まずこれが第一です。その後にビジネス視点で何をすべきか、という論点があります。

DMPフォローの問題が顕在化した後、事業主体を代えるという選択肢や議論はありましたか?

小林:それはありませんでした。ただ、どうやって事業を続けるかは議論しました。

例えば?

小林:僕らがリクナビの信頼回復を進めるなかで、リクナビへの投資を小さくして他の選択肢に集中していくという可能性は議論しました。ただ、結果としてはこのまま進化していくという方向でまとまりました。

DMPフォローの問題を受けて、一部の大学などで就活イベントからリクナビを排除するような動きが出ています。影響の大きさをどう見積もっていますか。

小林:影響がどの程度なのか、僕らもまだ予想がついていません。既に2021年卒は登録がほぼ終わっているので、3月からの採用段階で、サイト上のアクションがどうなるのか。その次に2022年卒のインターンシップの応募で、どの程度、学生が登録してくれるのか。このあたりを見ないと影響は測れないと思っています。

学生と企業、どちらに対する影響が大きかったと見ていますか?

小林:これは一概には言えないですね。ただ、学生は情緒的な側面が大きいと感じています。「本当にリクナビは信頼できるのか」という視点です。一方で、企業は非常に合理的です。「リクナビに投資をした分のリターンが実際にあるのか」と。

個人情報保護法の観点で質問します。保護委員会は、データの「提供先」で個人情報が識別できることを知りながら「提供元」では識別できないとして個人データの第三者提供の同意取得を回避したことを「潜脱している」と指摘しました。こうした判断は初めてで、専門家の中には「唐突だった」とする意見もあります。この勧告に、唐突感はありませんでしたか。

小林:私の立場で勧告の内容を評価するのは好ましくないと考えています。

 先ほどお話ししたように、このデータの利活用という分野は世の中の整理がされていないし、今後も変化していく分野だと思います。世論があり、その世論の高まりを受けて法がどうアジャストするかが今後も続くのではないかと思っています。

 「法をちゃんと守る」という当たり前の法令順守の観点だけでは、問題は防げないということです。なので、再発防止策では、社会通念やレピュテーションというものまで織り込んで判断することをコンセプトにしています。これはグループで統一していきます。現行法だけクリアするという考え方では今回のような問題は防げません。非常に難しい判断が要求されます。

ご自身の進退は?

小林:今、この場でお答えするのは難しい質問です。申し訳ありません。

この記事はシリーズ「インタビュー」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。