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リリース当時の私は、問題に気づけなかった

峰岸真澄さんがリクルートホールディングスの社長に就いて、「テクノロジー企業への変身」を掲げて改革に乗り出しました。そのなかで、リクナビにはなかなかイノベーションが生まれてこなかった。DMPフォローがその突破口になるという期待や焦りのような感情が拙速さを生んだということはありませんか?

小林:社内で焦りという感情はありませんでした。売り上げ偏重ということも正直、ありませんでした。

ただ、多くの関係者が「リリースまで短期間で進んだ」と証言しています。

小林:いや、今のリクナビの価値でこれからも勝負できるとは思っていなかった、というのはその通りです。DMPフォローも含めて、次のサービスの価値を生むものを積極的に仕掛けていくんだという気持ちは強く持っていました。DMPフォローがそうした位置付けだったことは確かです。そういう意味で、今のビジネスが安泰だとは全く思っていませんでした。

内定辞退率の問題を受け、昨年8月に開かれた記者会見で頭を下げるリクルートキャリアの小林社長(左・手前)と浅野和之執行役員(右・奥)

会見でも直接、質問させていただきましたが、このサービスをリリース段階で知ったとき、小林社長は「モラル面で問題になることを見積もれなかった」と答えています。今、振り返って、なぜ予想できなかったと考えていますか?

小林:ここは率直な考えをお話しさせてください。

 我々も含め、今、DMPフォローの問題はこういう整理をされていると思います。まず、学生はどの企業に内定をもらえるか不安におののいている。そんなときに、自分たちがよく知らない状態で、自分たちの合否に影響するかもしれないデータが企業に渡されている。しかも、それが「内定辞退率」だった。辞退率が高い学生は不利になるかもしれない。それが原因で落とされるかもしれない。

 こんな構造で捉えられています。こうした捉え方が、少なくとも私には当時、できなかった。

(写真:吉成大輔)

 それにはいくつかの背景があります。まず一番のベースとして、企業が合否を決めるときに、そもそも内定辞退率が高いか低いかで決めるはずがない。私は本当にそうだと思っているんです。だって、どんな人材がほしいかということが先にあり、辞退する確率が高そうな学生であれば(内定を出した後で)どうフォローするかを議論する。それが通常のフローだと思っているからです。「内定辞退率が高そうだから落とす」ということが我々には想像できませんでした。

 それから、このサービスは企業の実際の採用活動を通して実験しているような段階だったので、まだ白黒判定に使用されるような段階ではないという感覚もありました。

 実際に、現在は内定者のフォローをする時間がすごく長くなっています。人事の担当者は忙殺されています。しかし、そのフォローに見合うだけのリターンがあるかというと、そうはなっていないんですね。

 例えば現在は、採用定数に対して企業は約1.7倍の人数に対して内定を出し、学生の約65%が内定辞退をしている。大卒の求人倍率は1.83倍で、52%の学生が第1志望群の企業に入ることができている。一方で調査してみると、就職活動に納得しているかという質問に対して「納得している」と答える学生は4分の1にとどまっている。

 企業側に目を向けると、もっとコミュニケーションの質を上げたい。そのためには、もっと効率的なコミュニケーションの方法が必要ではないか──。企業が忙殺され、一方の学生があまり満足を得られていないという状況で、表現は良くないかもしれませんが「目先」にとらわれて(DMPフォローのサービス化に)ぐっと進んでしまった。先ほど申し上げたような学生の不安をかきたてるということが想像できなかった。これが率直な気持ちです。

それはちょっと違うのではないでしょうか。売り手市場のなかで、企業側には採用予定者数というノルマを持っているケースも多い。各リクルーターにとって、そのノルマのなかで、少しでも「逃げられない学生」に内定を出すことのプライオリティーが上がっているのではないでしょうか。こうした状況で「内定辞退率が合否判定に使われない」という感覚は、新卒市場の状況や世間の認識とずれている気がします。

小林:当時の我々の印象は先ほどのようなものだったんです。おっしゃる通り、個人情報保護委員会も「合否に使われた事実はないようだが、それを使っていたリクルーター一人ひとりの心理にどう影響したか分からない」という表現を使っています。それがまさに、今指摘されたことだと思います。

 それはその通りだと思います。我々がリリースのタイミングで気づけなかった背景を申し上げたということで、それが正しかったとは思っていません。