野内氏:久しぶりに「松本節」を聞けてうれしいです。リスクの許容度というのは私もよく使いますね。これまで数々の事業をつくり、また起業家にも投資をしてきました。例えば、誰かに事業を任せる場合は、どこまで許容できる人なのかを見ますよね。それと同じように、自分や自分の組織に対しても同じように見ている。

 変革に挑み続けるためにリスクを背負うのは不可欠なのですが、その裏ではきちんと自分や組織の許容度のラインを持っている。「無謀な挑戦」と「予測不能だけれどリスクの許容度が見えている挑戦」とでは意味合いが全く異なってきます。自分が持つリスクの許容度の中で挑む。ただ、リスクの許容度が高ければ高いほどリスクテイクできる。

(写真:的野弘路)
(写真:的野弘路)

松本氏:問われるのはリーダーの許容度ですね。組織や個人の成長に直結します。

野内氏:事業家でも起業家でも、許容度は共通して必要だと感じますね。会社の場合の許容度はBS。当社の場合はキャッシュがどれだけあるか。リーダー個人の許容度は経験値によるものが大きいですね。

 例えばこれまでに10億円規模の事業をつくってきた人に対して、いきなり100億円規模の事業をつくってほしいといっても、どうすればいいのか分からない。経験すれば、スケジュールをはじめ、どういう手順を踏むか、どんなリスクがあるのかも分かる。それと失敗の経験も役立ちます。事業をやめる経験はつらいですが、「これ以上いくと危ない」というゾーンが分かるようになります。この経験は投資でも生きています。

松本氏:野内さんのお話を聞くと、自分はあまりリスクを取らない方だと感じました。相当手堅いリスクの取り方しかしていないと思います。

野内氏:コントロール可能な部分できちんと抑えていますが、外から見ると相当速いスピードで走っていますよ。許容度が深いんです。

松本氏:たとえ時速300キロメートルで走っていても、自分でコントロールできていればそこは居心地がいい。でも時速50キロメートルであっても、自分でコントロールできない状況であれば怖い。許容度はおっしゃるとおり、重要ですね。

「手堅い」と自己分析する松本さんでも、コントロールできなかった経験はあるのですか。

松本氏:もちろんあります。組織のサイズが大きくなると、どうしても自分の手や声が届かなくなります。自分の思いとは別に組織が動き始めると怖いですね。

 自分がグリップしていれば、組織のこれからを比較的読みやすい。でも、そうでなくなった場合に、例えば何かうまくいかなかったときに事業を切り離したり、ストップしたりする判断ができなくなります。数字が良くても、コントロールできていない状態の中であれば、それも危険ですね。

野内氏:誰にも見えていなくても、自分だけはものすごく見えているときってありますね。そういうときはアクセルを踏める。周りからすれば、なぜここで突き進むの?と思われる場面でも、リーダーである自分に見えていればドンドン突き進める。でも、自分が見えていない中で進まれると、「ちょっと見えない」と言ってしまいますね。全部指示したいのではなくて、全部見えている状態にまで持っていきたい。だからこそ、リスクを取って変わることができるのです。

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