日本のスタートアップには、政策担当者も含めさまざまな誤解がある――。スタートアップ研究の最前線に立つ関西学院大学の加藤雅俊教授から、抱える問題や真実の姿を分かりやすく語ってもらった。

関西学院大学の加藤雅俊教授
関西学院大学の加藤雅俊教授
一橋大学大学院商学研究科博士後期課程修了。2018年から現職。同大学アントレプレナーシップ研究センター長も務める

日本の開業率は国際的に見て低いといわれます。そもそもどんな状況なのでしょうか。また状況を変えるにはどんな手を打つべきでしょうか。

加藤氏:開業率は日本の場合、1990年代以降、ずっと5%ほどであり、「安定して低い状況」にあります。しかも「グローバル・アントレプレナーシップ・モニター」の調査によると、日本は起業家のステータスが経済協力開発機構(OECD)主要国の中で低く、「起業家としての能力が自分にある」とする人の比率も、極めて低い状況にあります。これではいくら起業支援をしても開業率はなかなか上がりません。国はここ5年で起業数を10倍に増やす政策を打ち出していますが、短期的にそれほど増えることはありえないでしょう。政府はさまざまな施策を打ち出していますが、起業の数を追求する風潮には必ずしも賛成できません。何の目的でそれぞれの政策を進めているかが必ずしも明確でない分、一歩引いて見る必要があります。

 少し詳しく説明すると、起業の動機は先進国と途上国で異なる傾向があります。先進国では起業によって「もうける」チャンスを発見することでビジネスを起こしますが、発展途上国はほかに所得を得る手段がなく自分でやらざるを得ないために起業することが多い。このため、開業率だけでは単純に比較できませんが、先進国でみた場合、日本の低さはやはり目立ちます。

 開業率はその国の制度が深く関わっています。国内外のさまざまな研究が示すように、日本の場合、硬直的な労働市場の問題が大きいと思います。終身雇用や年功序列といった日本的な雇用システムを背景として、賃金労働者であることに対して起業のリスクが相対的に高く、起業に踏み切れない人が非常に多いのです。

 国は経済を活性化するために起業を増やす方針を打ち出しています。しかし、政策によっていくら起業の数が増えたとしても、経済活性化につながるとは限りません。米国のGAFAのような高成長企業が出てくればいいでしょうが、起業のハードルを下げるような施策は、質の低い企業を生み出す可能性が高い。これは多くの研究から明らかになっています。実際に、政府はこれまで多くの施策を講じてきましたが、ユニコーン企業(企業価値が10億ドルを超える未上場企業)もほとんど出てきていません。スタートアップには過度に期待しないほうがいいのです。

 それならばどうしたら高成長企業が生まれるか、となるかもしれませんが、特効薬は見つかっていません。世界中で研究が行われており、起業家の人的資本やイノベーションといったいくつかの要素が企業成長と関連していることが示されています。しかし、どの企業が高成長を実現できるかについて予測することは容易ではなく、運の要素も強いと考えられています。

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