(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
 米航空機大手ボーイングは23日、デニス・マレンバーグ最高経営責任者(CEO)の退任を発表した。2度の墜落事故を起こした「737MAX」の運航再開のめどが立たない中、マレンバーグ氏は「2019年中の運航再開を期待している」とたびたび発言し、米連邦航空局(FAA)との軋轢(あつれき)を生んでいた。事実上の解任とみられる。737MAXの問題は、ボーイングが欧州エアバスに対抗するため、FAAに安全認証を急がせたことが原因の1つと指摘する声もある。ボーイングが737MAXを市場に早期投入したかった背景には、顧客獲得競争が激化していることがある。

 後任は20年1月13日付でデビッド・カルフーン会長がCEO就任する。20年1月まではグレッグ・スミス最高財務責任者(CFO)が暫定的にCEOを務める。ボーイングは「取締役会は、規制当局や顧客、すべてのステークホルダーとの関係修復に取り組むための前進する自信を取り戻すためにリーダーシップの変更が必要と判断した」と声明を出した。

 ボーイングはガバナンスと安全管理プロセスの強化を徹底するために、10月11日にCEOと会長職を分離することを発表したばかりだった。しかし、737MAXの問題解決は進展せず、12月16日には、20年1月から737MAXの生産を停止すると発表した。ボーイングがCEO退任で、737MAX問題の仕切り直しを急ぐ背景には、航空機業界で過熱する顧客獲得競争がある。

 世界では経済成長に伴い、旅客輸送需要が右肩上がりで増加している。その動きを受けて、ジェット旅客機の需要も増加が見込まれ、日本航空機開発協会(東京・千代田)はジェット旅客機の需要が18年の2万3904機から38年には4万301機に増加すると予想している。

 航空業界全体が需要の右肩上がりに盛り上がる一方で、エアライン各社を悩ませるのは価格競争の激化だ。航空券の価格比較サイトなどの登場もあり、航空券の価格低下競争は激化。さらに足元の燃油費は高騰しており、経営環境は厳しさを増す。ANAホールディングスは米中貿易摩擦の影響で航空貨物輸送が減少したほか、企業の経費抑制で国際ビジネス線の需要が減少したことを受け、20年3月期の連結純利益予想を前期比15%減少に下方修正した。

 経営環境が厳しくなる中、エアライン各社が導入する機体の条件は、購入価格だけでなく、機体の燃費性能やメンテナンスコストなどランニングコストを重視する傾向が高まっている。ボーイングのサプライヤーでもある国内重工大手の幹部は「顧客のコストに対する要求は昔に比べて、厳しくなっていて、燃費性能の向上を求めている」と話す。そのため、メーカー各社は少しでも早く新開発の機体やエンジンを市場投入しようと急ぎ、開発競争が過熱しているのだ。

 英ロールス・ロイスが11月7日に、航空機エンジン「トレント1000」の改善に向けた費用が拡大すると発表したことの背景も、重工大手幹部はこう指摘する。「現状のエンジン構造では改良しても、燃費性能の進化に限界がある。本来なら時間をかけて、新たなイノベーションを創出すべきだが、開発競争の激化で、時間をかけられなくなっている」

 さらに航空機業界を構成する企業数が少ないことも競争を過熱させる要因だ。中大型の機体では世界を見渡しても、ボーイングとエアバスしかおらず、シェアの変化は分かりやすい。ボーイングのサプライヤー企業の幹部は「敵が1社しかいないからこそ、対抗意識が高まりやすくなる」と話す。

 現段階では、737MAX問題の終息のめどは立っておらず、ほかの機種の受注へも影響が出始めている。今回の問題がボーイングの中長期的な経営環境に与える影響は大きくなることは避けられない。開発競争が過熱する航空機業界にとって、今回のボーイングの件は経営陣の意識変化にもつながりそうだ。

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