「適切なストライドである可能性が高いです。スピードは、ピッチではなくストライドで調整しましょう」「重心の位置が上下動しています。腰を低くする意識をうまくイメージしながら、スーッと移動しましょう」

皇居ランナーなど向けにシャワールームやロッカールームを提供する施設「ランピット」の一角。息を切らせてランニングマシンを降りると、フォームの改善点が隣のモニターに自動表示された。アドバイスしてくれたのは施設の運動トレーナーやスタッフではなく、スタートアップ企業のスポーティップ(東京・港)が開発した運動解析専門のAI(人工知能)だ。
大手通信会社のKDDIは12月18日、「新たなランニング体験を提供する」との触れ込みでランピットでの実証実験を始めた。ランナーのランニングフォームをAIで解析する無料サービスのほか、飲料やサプリメントを扱う「無人店舗」が目玉だ。

フォームの解析実験では、ランナーがランニングマシンで走る姿勢をタブレット端末で1分間撮影し、その映像を運動解析専用のAIが自動的に解析して結果を表示する。「ピッチ」「ストライド」「重心上下動」「体幹の前傾」など評価項目は多岐にわたる。さらにお薦めのトレーニングやランニングシューズも提案する。

一方、無人販売コーナーは商品棚に取り付けた数台のカメラと重量センサーなどを使ってランナーが手に取った商品を認識する仕組み。ランナーがスマホのQRコードをリーダーにかざして販売コーナーに入場すれば、あとはレジに通すことなく、欲しい商品を手に取ってコーナーを離れるだけで自動的に支払いが完了する。ランナーが手に取った商品をカメラ映像から瞬時に識別するために、AIを使った画像解析のサービスを手がけるエジソンエーアイ(東京・港)の技術を採用している。
KDDIのこの実験には、大きく2つの狙いがある。1つは「ネットとリアルの融合」という戦略の徹底だ。
KDDIは目下、小売店舗などリアルの場にインターネットの技術やノウハウを適用して新たな事業を創出しようと様々な取り組みを進めている。「(次世代通信方式の)5G時代にはリアルの世界がインターネットにどんどん取り込まれていく。そうした世界観を分かりやすく提案したかった」。KDDIのインキュベーション組織「ムゲンラボ」を率いる中馬和彦ムゲンラボ長は今回の実験の狙いをこう説明する。

もう1つは、スポーティップやエジソンエーアイと組んだように、スタートアップ企業と大手企業とが連携して生み出す新事業の「ひな型」を次々に作っていくことだ。
本業の国内通信市場の成熟が進む中、KDDIは近年、「非」通信事業拡大の活路を、有望なスタートアップ企業との関係深化に求めてきた。当初は事業の初期段階である「アーリーステージ」の企業を主な支援対象としていたが、より競争力のあるサービスを取り込むため、現在は上場間近の「レイトステージ」の企業との出資や協業を拡大している。「日本の大企業には、本気でスタートアップ企業の活力を取り込み新事業を育てていくという覚悟が必要だ」と、中馬ムゲンラボ長は話す。
そうした仕掛けを自ら作り出そうと、KDDIが出資したり協業したりしているスタートアップ同士の連携も促してきた。例えば、11月にはKDDIオープンイノベーションファンド(KOIF)の出資先でもあるキャンプファイヤー(東京・渋谷)が運営するクラウドファンディングサイト内にKDDIの特設ページを開設。ここで、KDDIグループで幼児を持つ母親向けスマホアプリの「ママリ」を提供するコネヒトの新プロジェクトの資金を募っている。
スタートアップ企業の持つ斬新なアイデアや技術に大企業の豊富な資金や人材などの経営資源を掛け合わせ、ネットとリアルが融合した新サービスをつくる──。皇居ランというニッチな場とはいえ、今回の実証実験はKDDIのそんな狙いを具現化したものと言える。
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