三菱商事とNTTは12月20日、共同で欧州のデジタル地図大手、ヒアテクノロジーズに出資すると発表した。オランダに折半出資で設立する新会社を通じて、ヒアの株式の30%を取得する。出資額は1000億円前後とみられる。ヒアは自動運転に欠かせない地図技術を持つとして、世界の自動車メーカーが注目する企業。ただ、三菱商事とNTTの狙いは、位置情報を生かした流通分野のデジタルトランスフォーメーション(DX)だ。

 三菱商事とNTTは同日、東京都内で記者会見を開き、「産業DXプラットフォーム」を構築するために業務提携することを明らかにした。DXとは、デジタル技術を活用して、企業の業務プロセスや組織のあり方を変革して競争力を高める戦略を指す。定義は広く、商社に限らず多くの会社が注目するものの、顕著な成功例に乏しいのが現状だ。

デジタル地図大手のヒアテクノロジーズへの共同出資を発表した三菱商事の垣内威彦社長(左)とNTTの澤田純社長

 そんな中、両社が狙いを定めるのは、食品や産業素材の流通分野だ。食品の場合、消費者にたどり着くまで、原料、メーカー、卸、小売りと、業界が異なる様々な企業を経る。その過程では、食品ロスや、トラックの積み荷の空きスペースなど、一企業では十分に改善できていない非効率な部分が残されている。

 まずは三菱商事グループにある食品メーカーや物流会社、小売企業からデータを集め、NTTの技術で分析することで解消を狙う。効率化のノウハウがたまったところで、グループ外に提供できるプラットフォームを作り上げる構想だ。

 ヒアはその鍵を握る。カーナビゲーションや自動運転向けの位置情報システムで高い技術を持つとして、2015年にBMW、アウディ、ダイムラーのドイツ自動車大手の3社がノキアから買収。自動運転向けの地図データ基盤の構築を目指すダイナミックマップ基盤(東京・中央)とも連携するなど、自動車業界で注目を集める有望企業だ。三菱商事とNTTは、ヒアが持つ高精度な地図や位置データを生かして、交通情報や物流ルートを分析すれば、物流の効率化が進められるとみている。

 今回、16年に就任した三菱商事の垣内威彦社長にとっては、決算発表を除くと初めて記者会見となった。18年11月に中期経営計画を発表して以来、この日まで「本当に苦難の1年だった」(垣内社長)。中計で「デジタル戦略の強化」を掲げながら、具体策をうまく打ち出せずにいたからだ。NTTという日本最大のITシステム会社をパートナーに迎え、先端技術を持つヒアへの出資が固まったのは大きな一歩だ。

 ただ、今回の記者会見では、DXに取り組む三菱商事のグループ会社の名称や、具体的な事例についての説明はなかった。「今年度内に青写真を描く」(NTTの澤田純社長)段階であり、ヒアへの出資とは別にDX推進のために両社で設立を検討する共同出資会社についても、時期や形態は今後協議するとした。

 産業DXプラットフォームが構築できれば、企業や産業を横断して、物流や発注、製造の無駄を排除し、各企業はサービスの質で競争するような環境が整う。ただ、産業全体の生産性向上への期待を抱かせる一方で、「まだ、具体性がない夢のような話」(関係者)なのも確かだ。その端緒となれるのは、様々な分野のグループ会社を通じて「産業知見」を蓄えた三菱商事であるというのが垣内社長の考えだ。まずは三菱商事の約1500社の事業投資先で、「日本の産業界が克服しなければならないテーマ」(垣内社長)の改革に取り組む。方向性は定まった。次は実行力が問われる。

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