(写真:アフロ)

 伊藤忠商事はこのほど業務ソフトウエア開発のウイングアーク1st(東京・港)に追加出資した。ウイングアークは、発注書や稟議書、売上明細、給与明細といった業務に関わる帳票を作成・管理するシステムで約6割のシェアを握り、データを基に業務を「見える化」するサービスを手掛けている。伊藤忠は、業務データの分析が企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)に欠かせない技術とみて、グループ内外での活用を図る。

 伊藤忠は、同社が5割超を出資する上場子会社、伊藤忠テクノソリューションズと設立した会社を通じて12月中に、ウイングアークの発行済み株式の約25%を取得した。取得価格は100億円超とみられる。伊藤忠商事は2018年9月にウイングアークの株式3%を取得しており、追加出資となる。

 ウイングアークの帳票システムは約2万社が導入。業務データを分析する「ビジネスインテリジェンス(BI)ツール」は約7000社に導入されている。帳票は、納品や発注、請求、見積もりなど外部企業とのやりとりに関するものや、社内の人事評価や提案書、不動産の図面など幅広い。帳票の元になった膨大な業務データからチャートなどをつくり、進捗や効率を直感的に理解しやすいよう可視化できるのが売りだ。

 アサヒビールは16年にウイングアークのBIツールを導入。それまでは、本部からスーパーやドラッグストアの売り場づくりを担うスタッフに、売り上げ実績などを伝えるのに1週間から1カ月のタイムラグがあったが、ツールの導入で毎日共有できるようになった。実績を基に売り場のつくり方を工夫するなど業務改善につながったという。

 伊藤忠が注目するのは、業務の可視化にとどまらないチャンスやリスクを浮き彫りにするウイングアークの技術だ。帳票だけでなく、工場や売り場、物流現場、小売店に設置したセンサーやカメラ映像から集めたデータを分析し、生産ラインの停滞や在庫不足、食品の温度管理の状況、取引先への営業の過不足などをはじき出して、企業や従業員に知らせるサービスを手掛けている。

 予想外に売り上げが伸びている地区といった「社内の都市伝説」や、ベテランだけが気付く生産などの不具合について可視化が可能になる。デジタル技術でデータを分析し、業務改善を進める戦略は「デジタルトランスフォーメーション(DX)」と呼ばれ、商社だけでなく電機やITなど様々な企業が成長戦略の中核に位置づけている。

 ウイングアークはDXの鍵になる企業として伊藤忠以外とも連携している。投資ファンドのカーライル・グループは16年、オリックス子会社が保有するウイングアークの全株式を取得。名刺管理ソフトのSansanは19年11月にウイングアークの株式約11%を取得することで合意した。同月には、帝国データバンクとも資本業務提携(0.23%取得)で基本合意している。自社が持つ名刺データや企業データと、ウイングアークが分析したデータを突き合わせれば、新たなビジネスが生み出せるのではとの期待がある。

 日々の企業活動が生み出す「業務ビッグデータ」は、セールスフォースやSAP、オラクルといった海外の業務用ソフトウエア大手も関心を寄せている。海外にはない業態の総合商社のグループ会社が抱える業界を横断した豊富なデータは、DXに生かしやすいとみて、伊藤忠商事には「様々な企業から引き合いが来ている」(関係者)という。現状、DXの分野で突出した成果を上げた企業は少ないとはいえ、データ分析のノウハウを他社が握れば、今後の成長の鍵となるデータビジネスで遅れをとりかねない。伊藤忠商事はウイングアークの技術を生かして、DXで先んじる狙いがある。

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