「我々は『押印ロボット』とは言っていない」

開発の経緯を教えてください。

 デンソーウェーブとは、もともと別の取引があり、新規事業のチームと接点がありました。デンソーウェーブはCOBOTTAに注力していましたが、産業用ロボットの販路しか持っていないことが課題でした。

 COBOTTAはロボットにしては軽く、専用ケースに入れて持ち運ぶことも可能です。であれば、製造業ではない企業に対しても、オフィス向けとして訴求できるのではないか。当社はリース会社なので、企業のオフィスに関するニーズも分かり、販路もある。デンソーウェーブに提案して、「よし、やってみよう」と。これが出発点でした。企画を始めたのは、去年の8月ごろだったと思います。

 どんな用途があるかをヒアリングすると、「多くの書類がオフィスにはいまだ残っていて、単純作業が多い」という答えが多かった。電子化が進んでいますが、まだまだ全ての紙がデジタルに切り替わるのは先で、紙のまま残っている業務がある。それなら、代表的でわかりやすい作業を自動化できないかと考えました。

それで、「書類をスキャンする」「押印する」という2つの用途が出てきた。

 そうです。最も分かりやすいものがこの2つだと考えました。一般的に、産業用ロボットの場合は、提供者がスタンダードなプログラムを事前に入れるのではなく、それぞれの会社が自社に最適化した形で使用します。例えば「自動車部品を並べる」「試薬の量を測る」などといった用途です。目的がはっきりしている場合が多い。

 一方でオフィスの場合は、実際にロボットを使っているケースがないので、「このロボットを使ってほしい」と言って営業しても、顧客はどんな用途で使っていいか分からないと思うんです。だからこそ、代表的な2つの用途を事前にプログラムとして登録することを考えました。

 世の中では「押印ロボット」と言われていますが、基本的にはどんな作業にもカスタマイズできます。

「ハンコを押す行為を自動化する」のではなく、「ハンコを押す行為自体をなくす」のがイノベーションだという意見もあります。

 それは我々もそう思っています。ただ、今回開発したロボットは、「人間がやらなくてもいい単純作業」をなくすことで、人間がやるべきクリエイティブな仕事に注力させたいというコンセプトで作りました。

 おっしゃる通り、全ての書類が電子化されればハンコを押す必要はなくなりますが、現実問題としてそうなっていない。そういう社会の中で仕事を効率化するためには、スキャンしたりハンコを押したりするロボットも必要ではないでしょうか。

 我々は未来永劫(えいごう)、ハンコを押すロボットが必要だとは思っていません。

現実の課題の一つとしてハンコがある、と。

 そもそも、我々はこのロボットを「自動押印ロボット」とは言っていません。その時代にどこにでもある単純作業を代替するのが目的なので、どんどん機能を追加し、逆に不要な機能は削っていけばいい。

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