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 第一三共は12月17日、報道機関や証券アナリスト、機関投資家向けのR&D(研究開発)説明会を開催した。新しく打ち出したのは、「3 and Alpha」という方針。意味するところは、現在臨床試験を行っている抗がん剤候補の「DS-8201」「DS-1062」「U3-1402」という3つの抗体薬物複合体(ADC)の価値最大化に、研究開発費も人的リソースも集中するというものだ。

R&D説明会に登壇した第一三共の眞鍋淳社長兼CEO

 同社はこれまで、ADC以外にも急性骨髄性白血病(AML)に対する創薬や、新しいユニークな創薬にも取り組む方針を掲げていた。「2025年までにがん領域ではADCで3品目、AML関連で3品目、新しい技術やサイエンスを用いた1品目の合計7品目の承認を取得し、がんに強みを持つ先進的グローバル創薬企業になる」というのがこれまでの方針だった。

 今回の説明会でも、がんに強みを持つ先進的グローバル創薬企業の方針は不変ながら、3つのADC以外に取り組んでいたAMLフランチャイズをはじめとする他のプロジェクトは「and Alpha」とひとくくりに表現して、3つのADCの開発に全力投入するという旗幟(きし)を鮮明にした。それだけ3つのADCに大きく期待しているということだ。

 ADCというのは、標的分子だけを選んで結合する抗体に、低分子化合物の薬物をつなげた医薬品だ。抗体は生体内で病気などに関わるたんぱく質などにくっついて、その働きを妨げる作用を持つが、ADCはそれにペイロードと呼ばれる薬物を、リンカーと呼ばれる“ひも”でつないで、より強力にたんぱく質を攻撃できるようにしたものだ。特許が切れた抗体を利用し、さらに強力な医薬品に改良する手法としても注目されている。

 第一三共がこれほどまでにADCに入れ込んでいるのは、優れたリンカーとペイロードを共に独自に開発できたからだ。ADCは、がん細胞の表面にある標的たんぱく質に結合するとがん細胞の中に取り込まれるが、第一三共のADCのリンカーは細胞内にある酵素の働きで切断されてペイロードを細胞内に放出する。しかもこのリンカーは、抗体に数多く結合できるため、例えばDS-8201では、1つの抗体で8つのペイロードを細胞内に運び込める。また、ペイロードは非常に強い抗腫瘍効果を発揮する上、細胞膜を透過する性質を持つため、細胞外に出てきて周囲のがん細胞にまで殺傷効果を発揮できる。一方で細胞外では速やかに分解される性質を持ち、正常細胞に与える影響は少ない。

 HER2というたんぱく質に対する抗体にこのペイロードとリンカーを適用したDS-8201は、がん細胞表面にHER2たんぱく質が見られるという乳がん患者を対象に、今年8月に米国、9月に日本で承認申請された。米国では優先審査の対象品目になっており、米食品医薬品局の審査期限は20年4月29日に設定された。「臨床試験を開始してから4年半で発売されたなら、米メルクの抗がん剤キイトルーダが打ち立てた記録を破る可能性がある」と、がん領域の研究開発ヘッドであるアントワン・イヴェル氏は胸を張った。臨床試験でそれだけ手応えのあるデータが得られたということだろう。

 DS-8201に関して、第一三共は3月にグローバル大手製薬の1社である英アストラゼネカ社と最大69億ドルを受け取る契約を交わし、全世界における開発、販売で戦略提携した。まずはHER2がある乳がん患者を対象とするが、HER2を持たない乳がん患者や、肺がん、胃がん、大腸がんなどにも適応を拡大していくために、数多くの臨床試験を立ち上げていく。その数は、今後18カ月で開始するだけで16試験、トータルの臨床試験の数は43となる計画だ。

 一方で、DS-1062については現在、非小細胞肺がんを対象に、U3-1402については乳がんと肺がんを対象に、それぞれ初期的な臨床試験を実施したところだが、共に「米国市場に早期に参入できる可能性がある」として、リソースを集中させることにした。

 DS-8201も、DS-1062およびU3-1402も、2020年度に外部に投じる研究開発費は2019年度の約175%となる。それでいて、「年間約2200億円の研究開発費の範囲内でやりくりする」(古賀淳一専務執行役員)というから、他のプロジェクトがしわ寄せを受けるのは避けられないだろう。

 その点について古賀専務は、「and Alphaの部分を抑制気味にするのはその通りだが、止めてしまうわけではない。臨床試験を開始する前の初期段階のプロジェクトが多いので、研究開発費はうまく配分できると思う」と説明。眞鍋淳社長兼CEO(最高経営責任者)も、「ADCに続く資産の創製に向けて、刈り取りを行うこともCEOとしての中長期的使命だ」と語り、現在手掛けている基礎的な研究の中から、新しい種を創出していくことにも取り組んでいく方針を示した。

 実は、第一三共がこれだけ肩入れしているADCの技術も、元を正せば第一製薬と三共だった時代に手掛けていた研究に基づいている。開発中止に至った創薬研究の成果を、資産として社内に残していたことが今となって花開いた。だからこそ第一三共の経営陣は、多様な技術を社内で培っていくことの重要性を認識しているはずだ。

 まずはDS-8201をはじめとするADCが、日本発のグローバル製品として発売にこぎ着けられるかどうか。その先で、ADCに続く革新的な創薬で成果を上げられるかどうかに、長い目で注目していきたい。

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