クラウド会計ソフトを手掛けるfreee(フリー)が12月17日に東証マザーズ市場に上場した。初値は公開価格(2000円)を25%上回る2500円と上々のスタート。終値での時価総額は1200億円を超え、弁護士ドットコムやマネーフォワードを上回り、マザーズ9位となった。都内で記者会見した佐々木大輔CEO(最高経営責任者)は「ここからが第1章」と今後の成長拡大の抱負を語った。

2012年にフリーを設立するまでに、佐々木氏は投資ファンドのアナリストやAI(人工知能)ベンチャーのCFO(最高財務責任者)を務めたほか、米グーグルでは日本やアジアの中小企業向けマーケティングマネジャーなどを歴任した。お金の出し手や経営サポート、自らが経営する立場と様々な角度から中小企業の経営を見てきた。その中での気づきが、中小企業にIT(情報技術)がなかなか浸透しない現実だ。
とりわけアナログと感じたのが経理などの会計と人事労務というバックオフィス機能だという。中小企業の多くは慢性的な人手不足に悩まされる。それでも会計や人事などのバックオフィス機能は不可欠。フリーは支払いや売り上げを一括して日々管理できる統合型の会計ソフトを提供。レシートの写真を撮るだけでアプリが自動的に経費を仕分けする機能を持たせるなど、利便性を高めてきた。担当者がそれぞれ手入力していた作業をなくし、管理業務の省人化につなげることが狙いだ。
「会計や人事のソフトウエアにとどまらず、いずれは人工知能CFOとなって中小企業の成長を促したい」。上場に先立ち、日経ビジネスの取材に応じた佐々木氏は将来像をこう語っていた。クラウド会計ソフトで日々管理する生の数字を生かしてコンサルティング機能を提供したり、融資枠などを表示する機能をつけたりすれば、CFOのような専門知識を持つ人材がいなくても企業の成長に向けた方向性を示す存在になれる。

一方、フリーは創業以来赤字が続く。事業拡大に向けた製品の開発投資や、マーケティング費用が先行するからだ。
12月17日に開いた記者会見では佐々木氏は黒字化の時期については語らなかった。今回の上場で得た約120億円の資金も開発やマーケティングに充てる計画で、しばらく赤字が続く見通しだ。
フリーは上場にあたって、海外の投資家にも株を販売する「グローバルオファリング」と呼ぶ手法を選択した。クラウド経由でサービスを提供するSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)企業としては国内初の事例。今回、公募や売り出しの7割が海外投資家向けになっている。
その理由について佐々木氏は「日本ではSaaSに対する理解が浅い一面があるが、海外投資家はその点理解が深い」と語る。SaaS企業は投資が先行し、収益化するまで時間がかかりやすい。日本のIPO(新規株式公開)で主な買い手となる個人投資家はこうした企業を敬遠しがちで、市場の評価も低くなりかねない。北米を中心に海外の機関投資家を回った際に、いい感触を得たとして海外比率を高めた。開示義務はないが、費用として何に使ったかなどの内訳を自主的に開示した成果もあり、海外での募集では27倍の応募があったという。
海外投資家は赤字に対する理解はあるが、その分、成長に対する期待も大きい。フリーは彼らの厳しい要求に応え続けられるか。佐々木氏が描く理想を実現する必要がある。
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