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 東証マザーズに上場するバイオベンチャーのサンバイオの株価が大きく下げている。12月16日は取引開始から値が付かず、最終的にストップ安水準となる前週末比700円(16.9%)安の3445円で配分された。同13日の取引終了後に提携先の大日本住友製薬が、北米で慢性期脳梗塞を対象に共同開発してきた細胞医薬「SB623」について、共同開発およびライセンス契約の解消で合意したと発表。同時に、サンバイオは独自に開発してきた「SB623」の慢性期の外傷性脳損傷の適応に関して、「国内で2020年1月期中に製造販売承認申請する」としていたのを、「2021年1月期中」へと延期した。

サンバイオの森敬太社長

 大日本住友と共同研究を行っていた慢性期脳梗塞を対象とする開発については、19年1月に臨床試験で有効性の目標数値を達成できなかったと発表。開発計画については「臨床試験の結果を詳細に解析して検討する」としていた。ただ、株式市場では、「いずれは提携解消となる」との見方が支配的で、このこと自体には大きなサプライズはなかったといって良さそうだ。

 むしろ株価下落の大きな要因は、慢性期の外傷性脳損傷に対する承認申請時期を変更したことにありそうだ。

 1月30日に慢性期脳梗塞の臨床試験の失敗を発表したことで、サンバイオの株価は前日終値の1万1710円から4日連続のストップ安となり、2月5日にようやく2440円で売買が成立。同日終値は2620円となった。

 しかしその後、慢性期の外傷性脳損傷を対象とする臨床試験では良好な結果が出ているとアピールし、4月に「2020年1月期中に製造販売承認申請する」と表明。株価は4000円台に回復し、その後再び4000円台を割り込む場面もあったが、9月19日の説明会で森敬太社長が、「国内で2020年1月期に承認申請し、2021年1月期に早期承認を取得して発売する」と説明すると、翌日には再び4000円を突破。外傷性脳損傷に対する承認申請と承認取得に、株主が期待を寄せていたのは間違いない。

 同社は申請時期の変更理由について、「安定供給を行うためにはさらなる体制強化が必要と考え、時間をかけて準備を進めることにした」と説明しているが、なぜ1月期の期末を目前に控えたこのタイミングでの発表になったのかはよく分からない。

 2021年1月期というのが、ほんの少しの期ずれなのか、1年近くの先送りなのかも不明だが、「体制面の強化には、各種の管理体制構築や製造スタッフへの教育等を含む」としており、それなりに時間をかけて製造体制を見直すということだろう。

 SB623の外傷性脳損傷に関する適応は、厚生労働省の先駆け審査指定制度の対象品目に指定されており、承認申請前にも審査を担当する規制当局の医薬品医療機器総合機構(PMDA)に様々な相談を行えるようになっている。このため、「PMDAに相談する中で製造面の問題を指摘されたのではないか」と、ある業界関係者は指摘する。

 いずれにせよ、細胞医薬や遺伝子治療、ウイルス製剤といった新しいタイプの医薬品では、製造体制の問題から開発が遅延する事態が頻発している。第一三共はがん治療ウイルス製剤である「DS-1647(G47Δ)」について、19年3月期の決算発表を行った4月時点では「19年度上期に日本で承認申請する」としていたが、10月の20年3月期第2四半期決算では申請が遅延していると説明。製造委託先であるデンカ生研において、商業的規模での製造体制が確立できていないことを理由として挙げた。

 ニプロでも18年12月に脊髄損傷に対して製造販売承認を取得した細胞医薬の「ステミラック注」の製造の問題が表面化している。当初は20年3月期の予想売上高を6億円としていたが、20年3月期上半期の売上高は4400万円にとどまった。同社では、細胞医薬の製造が採算割れしている状況を改善するために、自動化した製造体制の確立に取り組んでいることを明らかにしている。

 製薬産業において、かつては化学工業的に製造する低分子治療薬一辺倒だったが、2000年代に入って大型培養槽を用いて細胞培養によって製造するバイオ医薬が台頭。ここ数年の間に、細胞医薬や遺伝子治療、核酸医薬などの新しいタイプの治療薬が登場している。これにより、従来では治療できなかった病気を治療できると期待される半面、従来法とは製造方法が全く異なるため、高品質の製品を安定して製造することが大きな課題になっている。

 ただ、製造が難しいものが増えているとはいえ、医薬品事業において高品質な製品を安定的に供給するというのは基本中の基本だ。製品開発を急ぐあまり、製造面の取り組みは後回しでいいというような風潮になっているとしたら問題といわざるを得ない。



 16日夕方に森社長に電話インタビューを行ったので、その内容を掲載する。

なぜこのタイミングで製造販売承認申請を延期することにしたのか?

森敬太社長(以下、森氏):ギリギリまで検討してきたが、今期は難しいという判断になった。状況が大きく変化するようなことがあったわけではない。製造委託先(日立化成の米子会社のヒタチケミカル・アドバンスド・セラピューティック・ソリューションズ)と安定供給のやりとりをする中で、継続して安定的に製造していくには体制強化が必要という判断になった。治験薬の製造と実際の商業生産とは異なるという課題の認識がこの段階となり、ギリギリまで粘ったけれど、時間をかけてじっくりやるべきという判断になった。

第3四半期の決算短信には、製造委託先企業の複線化を検討すると記載されている。現在の製造委託先での製造がうまくいっていないのでは?

森氏:複線化を検討するのは、1社だけでは今後の需要に対してリスクがあると判断しているからだ。量産化技術は既に確立しており、治験薬も製造できている。今回体制を強化すると言っているのは、現在の製造委託先でのことだ。

承認申請を2021年1月期に延期するということだが、再延期もあり得るのでは?

森氏:そこは責任持ってやっていく。技術的な問題では無く、管理体制の強化など、時間をかければやっていける内容だ。

逆に、単なる期ずれでは無く、それなりに時間はかかると理解して良いか?

森氏:2021年1月期のどのタイミングでかは言えないが、それなりに時間はかかると理解してもらって構わない。

  
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