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世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」

 川崎重工業は11日、液化水素運搬船の命名・進水式を開いた。マイナス253度に冷却された液化水素を運搬できる船が建造されるのは世界初。水素を新たなエネルギー源にする取り組みは国が実現に向けて力を入れているが、水素は製造コストが高く、普及を懐疑的に見る声が多かった。しかし、脱炭素を求める声の高まりで見方は変わり始めた。50年前にLNG(液化天然ガス)が日本で初めて導入されたときと状況が似ていると指摘する関係者もおり、期待が高まっている。

 艦船の建造を主とする川崎重工神戸造船所の敷地内は多くの人でごった返していた。世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」の進水式に集まった観客は約4000人。関係者によると、通常の船の進水式で集まるのは多くて1000人。その4倍が集まった。

 観衆が見守る中、船は神戸の海に滑り落ち、液化水素の貯蔵タンクを搭載するために同造船所内の艤装(ぎそう)エリアに向かった。川崎重工技術開発本部水素チェーン開発センター長の西村元彦氏は「いろいろな難関はあったが、無事に進水式ができてうれしい」と笑顔を見せた。

 船は2020年秋に完成の予定で、オーストラリアで生産した水素を日本に運ぶ実証試験に使われる。

 水素はマイナス253度に冷却すると、気体と比べて体積が800分の1となり、大量に輸送できる。液化水素の運搬は、16年に提案した安全要求案が世界的に承認されるなど日本がリードしている分野だ。「すいそ ふろんてぃあ」は実証試験用のため全長116メートルと小型だが、将来の商用化をにらみ2022年度までに大型の運搬船の建造に必要な技術開発を目指す。

 水素は燃焼時にCO2(二酸化炭素)を排出しない。低炭素社会を実現する有力な選択肢として、日本は国を中心に民間企業も連合を組み、関連技術の開発に力を入れてきた。しかし、水素の製造には水を電気分解するか、石炭や天然ガスの化石燃料から水素を取り出すなどの工程が必要で、製造コストが高い。そのためある大手重工幹部は「最終消費者がコスト負担を受け入れなければ、水素の普及は難しいだろう」と話していた。

 しかし、世界的な環境意識の高まりで水素に対する見方は変化しつつある。川崎重工の西村氏は「海外でも水素が『オプション』ではなく『マストアイテム』と言われるように変化してきた」と指摘する。ドイツやオランダ、サウジアラビアなど海外でも水素活用を促進する動きも出始めた。

 そうした状況を見て、業界関係者が思い起こすのは50年前に導入されたLNGだ。「LNGが初めて導入されたときは、こんなに普及するなんて誰も予想しなかった。水素も同じように急速に普及する可能性がある」(別の重工関係者)。

 資源エネルギー庁がまとめる総合エネルギー統計をみると、日本の第一次エネルギーの国内供給構成のうちLNGが占める割合は1973年度の1.6%から2017年度には23.4%に拡大した。

 一方、トヨタ自動車やBMWグループなど世界の企業60社が参加する「Hydrogen Council」が17年にまとめた水素利用の具体的なビジョンでは、2050年の世界のエネルギー消費量のうち、水素が18%を担うと見込んでいる。現在のLNGと変わらないような普及状況になる可能性を秘めている。西村氏は「LNGは液化運搬船ができたことで、大量に使われるようになった。水素も船の登場で、温暖化対策のゲームチェンジャーとなると期待している」と話す。

 今後、水素がLNGと同じポジションを築けるかどうかは、先述した製造コストに左右されそうだ。「LNGは掘れば湧いてきたが、水素は掘っても出てこない」(重工関係者)ため、低コストで製造する技術開発が求められている。欧州は再生可能エネルギーの余剰電力を再利用し、製造コストを低減している。しかし日本は再生可能エネルギーの電力料金が高い上、地理的にも普及させるエリアに限界があり大量生産は難しい。そのため海外からの調達に頼らざるを得ないが、そのためには液化水素運搬船のようなインフラ設備が必要となり、最終的には水素の価格に反映されてしまう。

 川崎重工は1981年に日本で初めてLNG運搬船を建造し、LNGの普及の恩恵を受けてきた。水素で「2匹目のドジョウ」を狙うために越えるべき波はまだまだ高そうだ。

写真:HySTRA提供
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