「現在の免疫チェックポイント阻害剤が単独で効くのは20%のがんだけ。我々は既存の治療法とは異なる作用のがん免疫治療薬の開発を進めている。それを様々な治療薬と組み合わせることで、有効性を高めることも期待できる」。説明会の冒頭で安川健司社長CEO(最高経営責任者)はこう語り、後発でもまだまだがん免疫分野にはチャンスがあるとの認識を示した。

 実用化に向けての課題が、臨床試験に参加する被験者の確保だ。既に述べたように、がん免疫治療薬は単独での有効性が限られるため、他の抗がん剤と併用しての治験が多い。こなす必要がある臨床試験の数が増えるため、被験者の確保が難しくなっている。

 業界内では「がん免疫分野は大手製薬企業といえどもおいそれとは手を出せない」とすらいわれる。臨床試験の被験者を確保できなければ、臨床試験のスケジュールは遅れ、試験に要するコストもどこまで膨らむのかも見通しにくいからだ。

 その点、アステラスは主力品の特許切れによって20年3月期の売上高と最終利益は19年3月期を下回る見込みだが、開発後期の品目の進展などで来期以降は業績が回復する見通しだ。金食い虫のがん免疫分野への参入を宣言したのは、そんな余裕の表れともいえる。

 安川社長は説明会で、「全ての品目が順調に進めば非常に大きな投資が必要になるが、全てが成功するとは限らないし、臨床試験の時期もずれるだろう。シミュレーションしたが、研究開発費が不足するような事態にはならないと考えている」「経営会議でもこれだけこなしきれるのかという声が出たが、有効性が証明されれば、他社から共同開発の申し出も期待できるだろう」などと語り、経営のかじ取りの難しい領域であることをにじませた。

 もちろん、いずれの品目もまだ臨床の早期段階であり、逆に全ての品目がうまくいかない場合もあり得るだろう。その成否は未知数ではあるものの、がん免疫というグローバル大手がひしめく分野に挑戦する覚悟のほどは十分に見て取れる説明会だった。

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