あおり運転や高齢者による事故などを受けて、運転中のクルマ前方の様子などを録画するドライブレコーダーに注目が集まっている。7割の運転者が「あおり運転対策として有効」と考えつつも、2万~3万円という価格がネックになって導入率は3割にとどまっている。そんな「ドラレコためらい組」に朗報となりそうな、スマートフォンがドラレコになるアプリが登場した。

 AI(人工知能)ベンチャーのニューラルポケット(東京・千代田)が12月5日、AIを搭載した無料のドラレコアプリ「スマートくん」をリリースした。使い方は簡単。アプリをダウンロードしたスマホを、運転席に設置した市販のスタンドで固定し、カメラを車両前方に向けるだけだ。

ドラレコアプリ「スマートくん」の使用イメージ(写真:ニューラルポケット提供)
ドラレコアプリ「スマートくん」の使用イメージ(写真:ニューラルポケット提供)

 無料ながら機能は豊富だ。運転中の動画を撮影・保存するだけでなく、AIが前方車両や信号機、人の動きを分析して、車間距離が狭い場合などに警告してくれる。さらに前方車両の急発進や急ブレーキ、急ハンドルなどを知らせる機能を、来年早々にも追加する予定だという。

 通信料もほとんどかからない。ドラレコアプリの起動中、録画や車両の検知などはスマホ端末内で処理する。そのため、アプリのダウンロードのほかは通信を必要せず、通信量の制限を気にしなくてもすむ。12月5日のリリースはiOS向けで、2020年にはアンドロイド向けも発表する。同社は端末側で情報を処理するエッジコンピューティングを得意としており、今回のアプリにも低い負荷で動画解析ができるAIを導入したという。

 弱点を挙げるとすれば、前方しか撮影できないという点だ。車両の後方や横は撮影できない。

 ここ最近、悪質なあおり運転による被害が報道で取り上げられ、ドラレコの必要性が広く認識されるようになった。理不尽な被害に遭っても動画がなければ立件は難しく、備えが求められている。

 ソニー損害保険が、クルマを月1回以上運転する男女1000人を対象に10月中旬に行った「全国カーライフ実態調査」によると、あおり運転への有効な対策として、73.0%が「ドライブレコーダーを設置する」と回答。しかし、搭載率は32.1%にとどまっている。

 ドラレコブームで高まる需要を狙う企業が相次ぐ中、ニューラルポケットはなぜあえて無料としたのか。周涵(シュウ・カン)最高執行責任者(COO)は「長い目で考えて、交通インフラのビッグデータを作りたいと考えた」と明かす。

 「スマートくん」は、運転サポートに必要な前方車両や歩行者だけでなく、車両の台数といった混雑状況や白線の欠落なども収集できる。これらの情報は、自動運転の実現や街づくりに欠かせないビッグデータになり得る。分かりやすい活用例としては、倒木や落石情報の自治体との共有や、運送会社への渋滞情報の提供、自動運転に必要な道路地図の提供などが期待されている。「多くの自動車にカメラが付けば、米グーグルがクルマを走らせて得る情報より、ずっと詳細な道路情報が集まるはずだ」(周COO)

 運転中の情報を収集するとなると、撮影したデータに個人情報が含まれないかといった点も気になるが、アプリを使うために名前など個人情報の登録は必要ないという。歩行者のデータも「人としか認識できない」レベルで、ニューラルポケットによると、取得データと個人をひも付けられる心配はないとしている。

 同社は12月4日付で、ソフトバンクやトヨタ自動車などの共同出資会社が設立した「MONETコンソーシアム」に加盟した。ドライブレコーダーメーカーにとっては競合になり得る無料アプリだが、メーカーからAIの活用で協業の誘いがあるという。ニューラルポケットは自動車業界だけでなく、地図会社や損保会社など幅広い分野に協力関係を広げていく計画。これまでドラレコに関心がありながら購入していなかった層を掘り起こすことができるだろうか。

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