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 11月25日、三越伊勢丹(東京・新宿)はビデオ通話やチャットを用いて接客、販売する「リモートショッピング」専用アプリの本格運用を開始した。旗艦店の伊勢丹新宿店が対象で、これまで同社のEC(電子商取引)サイトに掲載されていなかった店頭販売限定の商品もリモートで購入することが可能になった。

販売員は他の服との組み合わせ方なども提案する

 顧客がアプリを開き、婦人靴やジュエリー・ウオッチなどのショップを選択すると、チャットが始まる。欲しい商品の条件や価格帯を伝えると販売員が希望に該当する商品を紹介。顧客が購入を決めるとチャットに購入手続きページへのリンクが送られてくる。ここで手続きを済ませると、後日自宅に配送してもらえる。

 日時を予約しておけば、アプリ上で販売員とビデオ通話しながら商品の説明を受けることも可能だ。最初は14のショップで開始し、約1万5000種類の商品を取り扱う。将来的には店頭全ての商品である約100万種類を取り扱う予定だ。

 「この商品は自分に似合うのか」「手入れはどうするのか」「予算内でお薦めはあるか」などと気軽に質問できる。従来のECではサイトに記載されている商品写真や書き込まれた説明などしか商品選択の手掛かりがなかったが、双方向のコミュニケーションができるようになる。ECだけでは満足できない顧客に利用してもらうのが狙いだ。

顧客の声を生かす仕組みがなかった

 「百貨店業界全体に共通した課題として、収集した顧客データの分析が不足している」。MD統括部でデジタル推進グループのグループ長を務める三部智英氏はそう話す。「これまではECサイトの利用状況や購入データを分析してきたが、それだけではお客様の本当の声がわからなかった」。

 例えば、ある商品の販売数が店頭やECで急激に増えたとする。その理由について、これまでは社員が推測するしかなかった。しかし、今回導入する仕組みであればチャット履歴が残るため、どのような理由で消費者が購入を決定したのかがわかる。これにより、顧客ごとに的確なお薦め情報を流したり、接客時のコミュニケーション方法を工夫したりする予定だ。

 生の声を聞く活動をしていなかったわけではない。店舗には以前から「ウォントスリップ」という紙のメモがあり、顧客に要望や不満を書いてもらうようにしていた。しかし、「品ぞろえなどに十分反映する仕組みがなかった」(三部氏)という。

三部氏は「お客様の生の声を生かす効果を実感できた」と語る

 2019年10月には、日本橋三越本店にある菓子のセレクトショップ「菓遊庵」で、商品の購入時に購入理由などを聞き、そのメモを集計する試みを始めた。その結果を分析して品ぞろえなどに反映させたところ、増収効果があった。「食品売り場全体の売り上げは伸びていなかったが、この店では前年を超えた。お客様の生の声を生かす効果を実感できた」と三部氏は言う。

トップダウンで導入を押しつけない

 リモートショッピングをいつまでに全店に導入するかなどは決めていない。その理由について三部氏は「トップダウンで店舗に強制しても浸透しない。店頭の販売員のモチベーションが大事」と話す。

 店頭の販売員は通常の接客をしなくてよくなるわけではない。リモート接客は追加の仕事となる。そのため、やらされ感があると活用が進まないと考えている。「まずは成功事例をつくって、『自分のところでもやりたい』と思ってもらったショップから、順次展開していく」と三部氏は言う。

 ただし、解決すべき課題も多い。例えば、リアルの接客に忙殺されているとき、リモートの顧客からの質問に即答できないと、「放置されている」と思われることが懸念される。リモート接客のマニュアル化を進めていかなければならない。