東京大学と半導体受託生産世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は11月27日、提携したと発表した。国内の企業がTSMCの先端製造技術で半導体を試作できる環境を整えるほか、将来の半導体の材料や構造に関する共同研究もする。両者が目指すのは、半導体業界の「ゲームチェンジ」だ。

東京大学の五神真総長(左)とTSMCの劉徳音(マーク・リュウ)董事長(27日、東京・本郷)

 同日、都内で記者会見したTSMCの劉徳音(マーク・リュウ)董事長は「TSMCが海外の大学と組織全体で協業するのは初めて」と同社にとっても異例の協業になることを明かした。

 東大は今回の提携に合わせて「d.lab(ディーラボ)」と呼ぶ研究センターを設立した。このセンターに、半導体の設計や装置、材料を手掛ける国内企業や、半導体を応用する国内企業を集める。参加企業はTSMCが提供する設計ツールを活用して新しい半導体を設計し、TSMCの先端製造技術で試作できる。医療や健康、家庭、クルマ、社会インフラの革新に向けた専用半導体を、日本の企業が短期間で設計して試作品を入手できるようにする。

 d.labのセンター長に就いた東京大学の黒田忠広教授は「ゲームチェンジだ」と話す。日本政府が提唱する超スマート社会「ソサエティ5.0」の実現のためには、半導体を社会のあらゆる場所で使う必要がある。しかし、汎用チップを組み合わせる手法では電力消費量が膨大になる。用途ごとに最適な回路構成の半導体を造る専用チップの時代になっていくと黒田教授は予想する。

 TSMCで研究開発部門を担当する黄漢森(フィリップ・ウォン)副総経理も「エネルギーの利用効率を高めるために専用チップを造るのがトレンドになっている」と同意する。黒田教授は「半導体の設計期間10分の1と、半導体の消費電力10分の1を両立させる」との目標を掲げる。

 東京大学の五神真総長はかねて「国立大学は(知恵や情報が価値を生む)知識集約型産業のハブ(中心拠点)になれる」と話してきた。大学が起点となって複数の企業と連携することで新しい産業を生み出せるとの思いだ。東大が産業界の窓口になってTSMCと提携するのはその方針を具体的な形にするためだ。

 五神総長は「日本は半導体産業で非常に大きな技術の蓄積を持っている。活躍できる人材も産業界に数多くいる。半導体分野の技術や人材の蓄積を最大限活用して戦略的に勝負をかけなければいけないのはこれからの10年だ」と意気込む。TSMCの黄副総経理も「日本はグローバルの半導体サプライチェーンに重要な関係を持ち、多くの人材やアイデアがある。半導体技術のさらなる発展に貢献できる」と期待を寄せる。

 あらゆる分野の製造業が集積する日本。半導体の使い手として世界の先端を走り続けられたら、デジタル革新の基盤といえる半導体分野で再び日本の存在感を高められるかもしれない。

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