武田薬品工業は11月21日、都内の本社で投資家向けの研究開発(R&D)説明会を開催。今後5年間に14の効能に対して承認取得を予定する12の候補化合物の開発を進めており、さらにその後も持続的な成長を遂げられるだけの候補化合物群を仕込んでいることを紹介した。

「よくあれだけそろえたなあという印象だ」とクレディ・スイス証券で医薬品業界を担当する証券アナリストの酒井文義氏は語る。そしてこう続けた。「だけどマシンガンのようで小ぶりのものばかり。大砲が見当たらなかった」
そもそも約6兆円超でアイルランドの製薬大手シャイアーを買収した狙いが、希少疾患と血漿(けっしょう)分画製剤の事業を手に入れることにあったから当然と言えば当然かもしれないが、非常にニッチな候補品を数多く取りそろえている。
典型的なのが、肺がん向けに開発を進めているTAK-788という候補品。2021年度にも承認予定と紹介されたこの候補品は、米国で年に約20万人が新たに罹患(りかん)する非小細胞肺がんというがんのうち、わずか2.1%の患者でしか見られない極めてまれな遺伝子変異を有する患者を対象としている。
消化器領域で焦点を当てたセリアック病は小麦などに含まれるグルテンにアレルギー反応を示す疾患で、人口の1%ぐらいが罹患すると推定されているが、そのうちどのぐらいの患者が治療を受けることになるかは不明だ。ウイルス性肝炎などのように競合が多い疾患ではなく、競争相手がほとんどいない領域にあえて挑戦しているわけだ。
「全体で40ある候補品はいずれも革新性の高いものばかりだ。我々は新規領域に挑戦するというリスクをとっている」と研究開発を担当するアンドリュー・プランプ取締役は胸を張った。
希少疾患の治療薬は確かに市場は小さいかもしれないが、開発段階で専門医や場合によっては患者と密接に連携することになる。そうすると、患者や医療現場の実際のニーズが分かり、開発に成功する確率は高まる可能性がある。実際、R&D説明会では、ナルコレプシーという睡眠障害の治療薬の開発現場に患者を招き、知見を得ていることが紹介された。
過去、長年にわたって新薬をほとんど出すことができなかった武田薬品が、クリストフ・ウェバー社長とプランプ取締役のリーダーシップの下で大きく変化したことをアピールするためにも、成功確率の高い希少疾患の薬に焦点を当てる必要があったのかもしれない。
技術基盤が大きく変化したことも注目できる。プランプ取締役は、「5年前の武田薬品は90%が低分子化合物だったが、現在は70%が低分子化合物以外のモダリティだ」と説明した。モダリティというのは抗体医薬や核酸医薬、細胞医薬といった分子の種類を指す。シャイアーの買収により、遺伝子治療薬の製造施設をはじめバイオ関連の技術基盤が手に入ったメリットは大きい。
問題は、今後訪れる大型製品の特許切れによる売上高の減少を、小粒の新薬群でカバーしきれるかどうか。ウェバー社長は、「現在の主力品に、今後登場する新薬が加われば、特許切れを克服して成長できる」と強調したが、思惑通りに成長できるかはまだ分からない。
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