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 国際オリンピック委員会(IOC)が2020年東京五輪のマラソンと競歩の開催地を札幌に変更したことが、波紋を呼んでいる。本誌記者は11月18日、五輪トップスポンサーになった米エアビーアンドビーの記者会見に出席したIOCのトーマス・バッハ会長を直撃。開催地変更について尋ねたところ、バッハ氏は以下のように答えた。

 「東京五輪ではマラソンの開催地を札幌に変更することで、選手たちの健康を守りたい。これはとてもいいソリューションで、東京五輪に便益をもたらすだろう。我々はウィンウィンのシチュエーションにある。多くの選手、できれば全ての選手にゴールしてほしい」

国際オリンピック委員会のトーマス・バッハ会長は18日ロンドンで、五輪トップスポンサーになった米エアビーアンドビーの記者会見に出席した

 同日、米AP通信が「大多数の選手が札幌への変更に賛成している」とのバッハ会長の発言を報じると、大きな反響があった。

 特に酷暑の準備をしてきた選手から怒りの声が上がった。9月下旬から10月上旬にかけてカタール・ドーハで開催された世界陸上競技選手権大会の50キロ競歩男子で3位となったカナダのエバン・ダンフィー選手はツイッターで、「誰が賛成しているのか。ステークホルダーへの相談もなかった。IOCは選手に配慮していない」と痛烈に批判した。

 選手の健康に配慮して開催地や開催の時間を選ぶという判断自体は間違っていない。しかし、今回は手続きやタイミングに大きな問題があったようだ。

 酷暑の問題は、東京五輪が決定した13年から指摘されており、検討の時間は十分にあった。当初IOCはマラソン・競歩の東京開催について容認する構えを見せていた。そのため、東京都は様々な酷暑対策を講じてきた。

 しかし、ドーハで開催された世界選手権のマラソンで棄権者が続出したことで、IOCは態度を急きょ変えたようだ。バッハ会長が本誌の取材に答えた際の「全ての選手にゴールしてほしい」という言葉からもIOCの危機意識がうかがえる。ただ、開催地の東京都には相談がなく、選手の反応を見る限り、多くの選手にヒアリングしているわけではなさそうだ。夏の札幌では30度を超える真夏日が多いのも周知の通りだ。

 そもそも北半球の最も暑い季節に五輪を開催するのは、放映権を持つ米放送局の意向が強いとされる。この時期は米国で大きなスポーツイベントが少なく、視聴率を稼ぎやすいと言われる。これは東京五輪に限った問題ではない。フランス・パリで開催される24年の夏季五輪も、7月下旬から8月上旬に開催される予定だ。

 昨今は欧州でも夏の猛暑が問題となっており、パリでは今年7月に40度超えを記録したほか、夜中や明け方になっても涼しくならない時があった。これはマラソンや競歩だけでなく、すべての選手にとって非常に厳しい環境だ。猛暑であれば競技の瞬間だけでなく、滞在期間中のコンディション維持も難しいだろう。

 IOCは美辞麗句を並べる前に、五輪の開催時期の見直しなど選手のパフォーマンス向上の具体策を検討すべきではないだろうか。これは放映権など巨大ビジネスとからむため、すぐに結論を出すのは難しいだろう。調整に長い時間が必要になるため、腰をすえて議論する必要がある。ビジネスの観点からも、選手のパフォーマンス低下は五輪のブランド価値を大きく損なうことになるはずだ。

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