三菱ケミカルホールディングス(HD)は11月18日、56.39%の株式を保有する田辺三菱製薬に対して株式公開買い付け(TOB)を開始すると発表した。田辺三菱は2007年10月に三菱ウェルファーマと、田辺製薬とが合併して発足した。発足後も株式上場を維持してきたが、製薬企業を取り巻く環境は大きく変わろうとしている。そこで、両者のリソースを持ち寄ってこの変化に対応することにした。

11月18日、記者会見する田辺三菱製薬の三津家正之社長(左)と三菱ケミカルホールディングスの越智仁社長
11月18日、記者会見する田辺三菱製薬の三津家正之社長(左)と三菱ケミカルホールディングスの越智仁社長

 今回の完全子会社化は、三菱ケミカルHDからの打診に田辺三菱が応じたものだ。その狙いはモダリティの多様化に対応することにある。モダリティというのは、低分子化合物や抗体医薬、核酸医薬などの医薬品を構成する物質の種類を指す。かつて、医薬品といえば低分子化合物がほとんどで、それ以外ではワクチンと血液製剤があったぐらいだった。ところが遺伝子組み換え技術が登場して以降、たんぱく質製剤や、抗体医薬などが登場し、市場で大きなシェアを占めるに至った。昨今は、これに遺伝子治療、核酸医薬、細胞医薬のほか、治療用アプリなども加わろうとしている。

 そうなると多様な技術に研究開発費を投資せざるを得ない。田辺三菱も買収や提携などを通じてモダリティの多様化への対応を図ってきた。例えば、13年7月には植物由来VLPワクチンを開発するカナダのメディカゴの買収を発表。さらに16年11月には阪大微生物病研究会とワクチンを製造する合弁会社のBIKENの設立を発表。17年11月には核酸医薬の開発を手掛けるステリック再生医科学研究所(東京・港)の買収を発表している。

 この結果、研究開発費の増加により、営業利益から非経常的要因による損益を除いたコア営業利益が圧縮される結果となっている。16年3月期には研究開発費の1.6倍程度あったコア営業利益が、19年3月期には0.6倍程度まで低下。20年3月期には、薬価改定の影響に加えて、19年2月にスイスの製薬大手ノバルティス社との間で多発性硬化症治療薬「ジレニア」のロイヤルティー収入の支払い義務の存否に関する仲裁が提起されたことなどの影響により減収減益を見込んでおり、コア営業利益が研究開発費を下回る状況が続く見通しだ。

 一方で、三菱ケミカルHDでは、田辺三菱以外でも、生命科学インスティテュートという事業会社でヘルスケア領域の事業を展開してきた。特に細胞医薬という、今後、大きく成⻑する可能性がある新しいモダリティの研究開発を同社で手掛けており、グループの中でリソースが分散した状態になっていた。加えて、デジタルヘルスや予防・ヘルスケアといった新しい分野に挑戦していくためのリソースもグループ内で分散していた。そこで、分散していたリソースを集中させることで、多様なモダリティに取り組む体制を確保した格好だ。

 ただ、デジタルヘルスにせよ、再生医療にせよ、国内外の大手製薬が活発に投資している分野である。田辺三菱と三菱ケミカルHDのリソースを統合するだけで必ずしも優位に立てるとは言いがたい。今回の公開買い付けに4918億円を投じる三菱ケミカルHDには、今後、これらの新しい分野で成長できる種を生み出せるかどうかが問われることになる。

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