富士フイルムホールディングス(HD)が100%子会社にした富士ゼロックスの業績が好調だ。11月12日に発表した富士フイルムHDの2019年4~9月期決算では、富士ゼロックスが担う「ドキュメントソリューション」部門の営業利益率が前年同期比2.6ポイント増の11.2%になった。米ゼロックスとの合弁契約を解消し、安定的に利益を生み出す事業として運営することを決めた富士フイルムHDにとって弾みがつきそうだ。

富士ゼロックスは、英ランク・ゼロックスと富士写真フイルム(現・富士フイルムHD)が折半出資で1962年に設立した企業だ。当初は米ゼロックスが開発した世界初の普通紙複写機の販売を担う会社だったが、70年代にメーカーとしての体制を確立し、82年には研究所を設置して技術力を磨いた。90年代にはオーストラリアやマレーシアなど4カ国の事業権を新たに取得するなど海外事業を拡大した。
2001年3月には、富士フイルム側が富士ゼロックス株の25%を経営不振の米ゼロックスから追加取得し、連結子会社にした。写真フィルムの世界需要がピークを迎えたタイミングで、事業構造を転換する狙いがあった。
その後も成長を続けた富士ゼロックス。リーマン・ショックによる世界的な需要の冷え込みで売上高と営業利益を減らしたものの、11年3月期から回復。17年3月期までは営業利益率7.5%前後を維持してきた(富士フイルムHDのドキュメントソリューション部門としての数字)。
そんな中で発覚したのが富士ゼロックスの海外子会社における不適切会計問題だった。ニュージーランドとオーストラリアの販売子会社で不適切な会計処理があり、375億円の損失が発生した。事態を重く見た富士フイルムHDの古森重隆会長兼CEO(最高経営責任者)は富士ゼロックスの会長を兼務することを決めた。
1978年から社長、92年から会長を務めた小林陽太郎氏の下、自由闊達な風土が育った富士ゼロックス。しかし、富士フイルムHDの助野健児社長は問題発覚後、「経営の自主性を尊重してきたことが問題につながった」と指摘、富士ゼロックスを徹底的に“教育”すると表明した。それは、富士フイルム流のマネジメントを導入して管理を強めるとの宣言に他ならない。
実際、2018年1月に富士フイルムHDは国内外で1万人を削減する富士ゼロックスの構造改革に乗り出すと発表。営業体制と開発体制の再編や生産拠点の統廃合、製品構成の見直しなどを進めた。この構造改革などの一時費用700億円を18年3月期に計上したため、この期の富士フイルムHDのドキュメントソリューション部門の営業利益率は1.3%に沈んだ。
富士フイルムの教育は、数字上は絶大な効果を見せた。19年3月期の同部門の営業利益は前期比11.5倍の963億円となり、営業利益率は9.5%まで上昇した。古森会長は富士ゼロックスの100%子会社化を発表した会見で「富士ゼロックスの経営に深く関わり、富士フイルムとの部門統合や『富士フイルムウエイ』の導入などを進めた。もともと実力がある富士ゼロックスが強力な集団に生まれ変わった」と話した。
管理を強化して利益を生む体質になった富士ゼロックスだが、自由闊達な社風が失われることによる人材流出の懸念がささやかれる。そのうえ、複合機やその消耗品の市場はペーパーレス化の進展で大きな成長は見込めない。
そうした環境下にあっても「富士ゼロックスは今後大きく伸ばせる」と古森会長は断言する。事務機メーカー各社がソフトウエアやサービスを組み合わせたオフィス全体の効率化に軸足を移して競う中、想定通りに富士ゼロックスを成長させられるか。管理強化による好業績だけでは物足りない。
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