文藝春秋は11月7日、総合月刊誌「文藝春秋」のオンライン定期購読サービス「文藝春秋digital」を、メディアプラットフォームである「note」を利用して同日から開始したと発表した。メディアでは常識とされてきたウェブサイトの自社開発を捨て、外部プラットフォームを利用したコンテンツ配信に舵(かじ)を切る。

月刊「文藝春秋」は1923年に菊池寛が創刊した月刊誌。芥川賞を年に2回発表、掲載する媒体としても知られる。日本雑誌協会による印刷証明付き発行部数は39万7833部(2019年1月から3月の平均)で、総合月刊誌としては日本でトップの部数を誇る。
noteはピースオブケイクが運営するオンライン上のサービスで、クリエーターが文章や音声などを自由に投稿できる。2014年にサービスを開始し、月間アクティブユーザーは2000万人に達した(2019年9月時点)。
文藝春秋は法人向けプランである「note pro」を利用する。同社はピースオブケイクに対してnote proの月額利用料5万円(税抜き)とnote活用におけるコンサルティングフィーを支払う(金額は非公表)。
月刊「文藝春秋」のほぼ全ての記事をnoteで原則有料で配信する。記事1本当たり100円または200円、配信した全ての記事を閲覧できる月額プランは900円(いずれも税込み)。これまで月刊「文藝春秋」は、キンドル版の販売や、同社のポータルメディアである「文春オンライン」での関連記事の配信には取り組んできたが、雑誌のコンテンツをほぼ全てデジタル化するのは初めてだ。
同日に会見した月刊「文藝春秋」の松井一晃編集長は「我々が(雑誌の中で)どんなに面白いことをやっても、コンテンツの流通革命の中で、知ってもらえないという状況がある」と文藝春秋digitalを開発した背景を語った。まずは運用コストを賄える分として、2000〜3000人の月額会員の獲得を目指す。
ピースオブケイクの加藤貞顕CEOは「我々は『誰もが創作を始め、続けられるようにする』ことをミッションとしている。菊池寛が若いクリエーターのために「文藝春秋」を創刊したのと(志が)同じだ。創作を始めるのは簡単だが、続けるのが難しい。ビジネスも記事の流通の面でも。一緒に仕事ができることを光栄に思う」とコメントした。
文藝春秋digitalのプロジェクトマネージャーを務めるのは31歳の村井弦氏。「週刊文春」や月刊「文藝春秋」で数々のスクープ記事を書いたエース記者だ。同誌の中では若手であり、抜てき人事である。松井編集長は「コンテンツを届けたい層と同じ世代の人間が(中心になって)進めるのが、浸透させるための一番の道筋ではないかと考え、彼に任せた」と語る。
なぜ内部開発を捨ててnoteと組んだのか。これからデジタルでどんなコンテンツを企画していくのか。村井氏に聞いた。

2011年4月に株式会社文藝春秋に入社。「週刊文春」編集部に配属。全聾(ぜんろう)の作曲家ともてはやされた佐村河内守にゴーストライターがいたことを暴いた「全聾の作曲家はペテン師だった!」などの記事を担当した。2015年7月、「文藝春秋」編集部。「許永中の告白『イトマン事件の真実』」、「自殺・近畿財務局職員父親の慟哭手記 息子は改ざんを許せなかった」などの記事を担当。2019年7月から現職
村井さんが「文藝春秋digital」に関わることになった経緯を教えてください。
村井弦・文藝春秋digitalプロジェクトマネージャー(以下、村井氏):私が辞令を受けたのは今年7月でした。去年7月に松井が編集長に就任していて、正式な内示が出る前に、松井から「『雑誌としての』オンラインメディアを作りたいので、責任者になってくれないか?」と打診があったんです。
辞令を受けた際の「文藝春秋digital」の前提条件は? 御社は月間で2億ページビューを超える「文春オンライン」を持っています。週刊文春だけでなく月刊「文藝春秋」の記事も一部、配信されています。御社のポータルとしての位置付けだったのでは。
村井氏:条件は一つだけ。「コンテンツ課金がしたい」と。おっしゃる通り、「文春オンライン」ですでに月刊「文藝春秋」の関連記事の一部を配信していますが、基本的に無料です。「Number WEB」も一部課金していますが、全体では無料の記事が圧倒的に多い。当社として、デジタルでのコンテンツ課金はほとんど例がありません。そこにチャレンジしたいと。
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