(写真:ロイター/アフロ)
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 欧米フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)は31日、「プジョー」などを傘下に持つ仏グループPSAと対等合併を目指すことで合意した。FCAは、日産自動車に43%を出資する仏ルノーとの統合交渉再開も視野に入れていたが、実現性が乏しいとみて「現実路線」に転換した。FCAからのラブコールが途絶えたことで、ルノーが日産への圧力を強める可能性がある。

 「PSAとFCAの統合作業は簡単ではなく、少なくとも数年かかる。これで、FCAとルノーの当面の交渉再開はなくなった」。31日の基本合意を受け、ある交渉関係者はこう語った。

 PSAとFCAの主な合意内容は以下の通り。出資比率50対50の統合新会社を設立し、本社をオランダに置く。イタリア、フランス、米国にある両社の本社機能も残し、新会社の取締役は11人のうちPSAが6人、FCAが5人を指名。CEO(最高経営責任者)にはPSAのカルロス・タバレスCEOが就任する。

 新会社の会長に就く見通しのFCAのジョン・エルカン会長が当初、結婚相手と見込んだのは同じフランスでも、PSAではなくルノーだった。ルノーはフランスの名門で仏政府にとって「最も重要な企業の一つ」(関係者)。FCAとルノーは合意間近まで行ったが、日産が渋ったことから仏政府の姿勢が硬化し、エルカン氏は提案を取り下げた。

 ただ、その後もエルカン氏はルノー会長のジャンドミニク・スナール氏らとの対話を継続。「ルノーが日産をグリップすること」を条件に交渉再開の機をうかがっていた。その間、日産では西川広人前社長が辞任し、10月に経営体制の刷新を発表。新経営陣の選出にはスナール氏が関わるなど、ルノーにとって日産との関係構築は進んでいるかに見えた。

 だが、エルカン氏は我慢できなかった。「日産とのパイプだった」(関係者)という西川氏の離脱も痛かったようだ。FCAの主要市場の欧州は新車販売が低迷し、環境対応の要求基準も厳しい。電動化技術の開発に単体で対応できない中では、PSAとの合併で規模を追求し、コスト削減と技術開発の強化を図るのが現実的な道だった。

 PSAはプジョーのほか「シトロエン」や「オペル」などのブランドを持ち、FCAは「フィアット」「ジープ」「アルファロメオ」などを展開している。統合が実現すれば、両社合わせた世界販売台数は約870万台となり、米ゼネラル・モーターズ(GM)を抜いて世界4位に浮上する。統合によるコスト削減効果は年37億ユーロ(約4450億円)に上るという。

 PSAとFCAの合意は、日産の現経営陣にとっては「どこ吹く風」かもしれない。ただ、残っていたはしごが外された格好のルノーからすると「欧州最弱」の座が近づいたことにほかならない。ルノーの筆頭株主、仏政府が日産との経営統合を目論む姿勢は首尾一貫しているだけに、スナール氏の次の一手が気がかりだ。

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