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 「新しいオフィスができるんですけど、もぬけの殻になってもいい」

 三井物産が10月31日に開いた2019年4~9月期決算説明会を、安永竜夫社長はこう締めくくった。

 三井物産は現在、東京・大手町の旧本社ビルの一帯を三井不動産と共同で再開発中だ。地上30階超のツインタワーが中核となり、外資系高級ホテル「フォーシーズンズ」や結婚式も可能なホール、オフィスワーカー向けのランニングステーション、フィットネスジムなどをそろえる。その上階に三井物産の本社が入居する予定だが、安永社長は「賃貸ビルにしてしまおうかと考えている」と話す。

三井物産と三井不動産が再開発を進めている「Otemachi One」のイメージ図。三井物産の本社機能が移転予定だ

 東京都心の一等地に本社を構えるコストを負担できなくなったわけではもちろんない。業績は好調だ。19年4~9月期の連結最終利益は前年同期比5.1%増の2341億円で、20年3月期の最終利益は過去最高の4500億円をうかがう。商社業界全体を見ても、19年3月期は最高益の更新が相次ぎ、20年3月期も高い水準の利益を見込む。15年3月期~16年3月期の資源価格の下落による大きな損失を乗り越え、商社は好業績をおう歌している。

 そんな中での「脱東京宣言」には、安永社長の危機感がある。今回の決算は、鉄鉱石の価格が想定より高値圏で推移するなど、三井物産のお家芸ともいえる金属資源部門、エネルギー部門が増益となった一方、食料部門が低調で、自動車や電子部品の素材を手掛ける化学品部門も業績を落とした。同社は、米中貿易摩擦に直接関わる事業はもたず、これまで影響は小さかったが、「(米中貿易)摩擦の影響が世界経済に影響してくるなか、業績にも影を落としてきた」(広報担当者)という。じわりと忍び寄る景気低迷への耐性を高める必要性が出てきている。

 そのためにも資源分野への依存の解消を急いでいる。20年3月期が最終年度となる中期経営計画では、非資源分野の利益として2000億円を掲げたが、1650億円にとどまる見込みだ。「資源が9割」という時代に比べれば、依存度は下がったものの、資源価格の下落で損失が膨らむリスクがある。非資源を資源に並ぶ事業の柱に育てようにも、日本経済は「人口減を根本的に解決しない限りは、縮小する。to Japan、from Japan、with Japanでは成長に限界がある」(安永社長)

 三井物産は海外を「米州」「欧州・中東・アフリカ」「アジア・大洋州」の三極に分け、米ニューヨークと英ロンドン、シンガポールに置いている各地域本部に投資権限を付与している。東京の本社が支配するのではなく、各地域の現地人材が事業の種を探し出す体制を整えている。これに加えて、日本で採用された社員も、東京のオフィスにとどまることなく、「我々は出て行く」(安永社長)がこれまで以上に実現できれば、アジアの成長を取り込めると見込んでいる。

 説明会に出席したアナリストからは、来年度に始まる中計で、どのような「変化」を見せられるかとの質問が相次いだ。その裏側には、20年3月期に見込む過去最高益4500億円が天井ではないか、との見方がある。三井物産は、成長を追い求める株式市場の期待に応えることができるのか。新本社が三井物産社員以外で埋め尽くされたとき、実現しているかもしれない。

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