
10月31日未明、沖縄の首里城から出火し、主要施設が全焼した。首里城の建物自体は1992年に復元されたものだが、首里城跡は2000年に「琉球王国のグスク及び関連遺産群」として世界遺産に認定されている。復元された建物は00年の沖縄サミットで各国首脳をもてなす夕食会に使われるなど、沖縄を象徴する建物だっただけに焼失の衝撃は大きい。
日本には1300年を超えて現存する世界最古の木造建築である法隆寺などの国宝や重要文化財も多い。「世界遺産、または国宝の9割以上が全部または一部が木造」。文化庁が国内の世界遺産や国宝、重要文化財の建造物を対象に8月にまとめた調査は油断ならない現状を物語る。
文化庁が調査に乗り出したきっかけとなったのは19年4月、フランスのパリでノートルダム大聖堂が火災によって壊滅的な被害を受けたことだった。パリの象徴だったノートルダム大聖堂の火災は世界にも大きな衝撃を与え、文化庁も緊急調査に動いた。
調査では、夜間の緊急事態に対応できる人員が不足していることが明らかになった。火災などの緊急時に対応できる人数について世界遺産または国宝の67棟(全体の8.3%)、重要文化財の1608棟(同35.4%)で夜間は2人未満との回答があった。消火設備自体も約2割で整備・改修から30年以上が経過しており、30年未満の設備でも一部に不具合などがあった。
今回の首里城の焼失の原因は現時点では明らかではない。報道によると、正殿や南殿、北殿にはスプリンクラーが設置されていなかったという。法的な設置義務はなかったというが、防火という観点からは疑問が残る。
文化庁は8月、国宝や重要文化財の建造物の防火対策についてのガイドラインをまとめている。木造の建物であれば日常的な火気管理や出火防止に努めるなど、「基本的」とも言える内容だ。そもそもガイドラインだけに「強制力はない」(文化庁)。
「(首里城の)再建に向けて政府として全力で取り組んでいきたい」。菅義偉官房長官は31日の記者会見でこう述べた。観光立国を目指す日本にとって、観光資産という観点からも歴史的建造物の重要性は増している。その防災対策をあらためて見直す必要があるだろう。
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