日立製作所が10月30日、2019年4~9月期決算を発表する。業績と共に気になるのが、22年3月期までの3年間で予定する2兆~2.5兆円の成長投資の使い道。独重工業大手ティッセン・クルップが売却を検討しているエレベーター部門の買い手候補に日立は挙がっている。売却額が2兆円超ともいわれるビッグディールに日立は乗るのか。

日立は20年3月期決算の見通しを、売上高は前期比5%減の9兆円、調整後営業利益は同0.5%増の7650億円としている。日立国際電気の再編や為替の影響などで減収となるが、収益性の改善によって増益を目指している。ただし、中国や欧州などの景気減速の影響を受けてファナックやキヤノンが通期予想を下方修正するなど、経済環境は悪化している。日立の業績が、景気に左右されやすい上場子会社の下振れリスクを吸収して計画通りに進むかどうかが注目される。
もう一つ、気になるのが、日立が5月に発表した22年3月までの中期経営計画で示した2兆~2兆5000億円の成長投資の使い道だ。その後、すでに合意しているスイスABBのパワーグリッド事業の買収に関連する費用に約1兆円、データを価値に変えるデジタル事業「ルマーダ」を加速するためのM&A(合併・買収)に約8000億円、米国のロボットシステム構築企業の買収額を含めたインダストリー分野に約5000億円を投じる方針を示していた。
そこに降ってわいたのがティッセン・クルップのエレベーター事業の案件だった。業績低迷で、稼ぎ頭のエレベーター事業を売却する方針を打ち出した。
中国の新設需要が一服したエレベーター事業は、既設のエレベーター向けの運行管理や監視のサービスで稼ぐ「ストック型」のビジネスに変わりつつある。日立のビルシステム事業部門も、ルマーダを活用したサービス事業の拡大で収益性を高める考え。そのためにはどれだけのエレベーターの顧客を持っているかが重要になる。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の宮本武郎シニアアナリストは「今の日立の経営の方向性に合致する案件だ」と話す。ルマーダを中核とする経営方針に合うばかりでなく、地域的な補完性が非常に高い。欧州を基盤とするティッセン・クルップに対し、日立は日本と中国向けの売上高が9割強を占める。
ただし、買収できるか否かは金額次第だ。業界では売却額が「2兆円は軽く上回る」ともささやかれる。日立はすでに見たように、2兆~2.5兆円の使い道はあらかた決めている。そこにエレベーター部門が割って入り、成長資金を買収に使うのは簡単なことではない。宮本シニアアナリストも「言われているような(2兆円規模の)金額だと中期経営計画を大幅に見直さなければならない」と指摘する。
投資ファンドと組んで資金を捻出する可能性も否定できない。ある関係者は「お金がないときの一つの手」と認める。ただ、「当然、ファンドはいずれエグジット(投資回収)する。なかなか難しい」とも語る。
そもそも日立の一部の取締役からは「高すぎるし、規模が大きすぎる。投資家に説明できない」といった否定的な意見も出ているもようだ。
日立のCFO(最高財務責任者)を務める西山光秋執行役専務は6月の投資家向けイベントで、「各部門の事業拡大シナリオを持ち寄ると投資がかさむ。ROIC(投下資本利益率)やルマーダ事業への貢献度、日立グループとしての相乗効果などの観点から優先度を考えていく」と話していた。
千載一遇のチャンスを生かすのか、見送るのか。日立にとって悩ましい日が続く。
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